第5話 その不完全さゆえにきみが愛おしい

「朋樹ー」

「何?」

「紅茶に入れるのって、シナモンですよね」

「うん、棚にあるでしょー」

「あるんだけど……」


滅多に使わないけれど、一応なくなれば買い足すくらいには使用している。一般家庭だとか、彼のような独り身だと珍しいと言われることがままある。好みの問題だから、どう受け取られても気にはしないが。

彼女は入れたての紅茶と、いまいちパッとしない表情で戻ってきた。

疑問点はどうやら、シナモンらしい。


「シナモンでよいのですよ?」

「そう、なんだけど……シナモンって、薄荷のこと?」


一瞬思考が止まって、カップを手に持ったまま彼女の顔を見た。

ああ、彼女はいたって真面目だ。


「シナモンって外国語でしょう?」

「外国語かカタカナ語かは調べるといいよ、受験生」

「なら日本語はなにだったかなぁって」

「……ほんとに心当たりがない?」

「え?」

「さっき言ってた薄荷はさ。そこらへんにあふれてるよ? この前、花羽もうれしそうに言ってたじゃない」


彼女は、はて? と思い返しているようだった。

正確に言えば、薄荷とは言っていないので思いあたらないのも無理はないだろう。


「ん?」

「花羽はこの前、ミントの葉っぱを貰って喜んでいたでしょう?」

「あーあ。そんなこともあったかもしれない、けどそれがどうして薄荷に繋がるの?」


シナモンは? と彼女は聞き返してきた。

彼女の入れてくれた紅茶を一口飲んで、それから答えた。


「ミントと薄荷は同じものなのですよ、花羽ちゃん」

「え!」

「そして一番の問題、シナモンは……ほらよく飴にあるじゃん、ニッキ飴って……ニッキの事だよ」


「……えー」


彼女は少しむくれた。さも彼の方が嘘をついているような、疑いっぷりだ。


「なら、紅茶にミントを入れて飲むといいよ、花羽だけそうして」

「なっ、意地悪!」

「ミントも入れないわけじゃないから、試してみるのもありなんじゃない?」

「なんですとっ!」


彼女は時々、抜けている。

けれど、そこが彼女のよいところであり、いとしいところなんです。



【その不完全さゆえにきみが愛おしい】



「なら、どうしてシナモンはニッキでミントはハッカなの? なんで?」

「……」

「教えて、朋樹サンッ!」


しつこいので、知らん振りする事にしました。

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