第14話【オッサン、噂を聞く】
「"黄金の迷宮"?」
「その様子だと知らないようですね。今密かに迷宮測量士の間で話題になってる話でして、なんでも挑んだ測量士や冒険者の殆どが帰らぬ人となっている難関不落の迷宮だとか……どこにあるのかまでは分からないんですけどね」
最後にまぁ所詮噂は噂かもしれませんが、とカイルは付け足した。
難関不落の迷宮―― 本当にあるとして、挑んだ者が居るならば場所くらいは分かりそうなものだが。
一体どのような迷宮なのだろうか? 強力な魔物や罠があるのだろうか? あるいは――
なんとも冒険心をくすぐる話題だ。本当にあれば見てみたいものだ。
「その噂についてなんだが、アタシからも話がある」
ニーナと微笑ましく話をしていたヘレンが真面目な顔をしてこちらへと向く。
「カイル、アンタの言っている噂とやらは本当だよ。"黄金の迷宮"は実在する」
「……! そ、それじゃあ場所も分かってるんですか!?」
「いいや、これがちょいと厄介な迷宮でね。出現から数日経つと別の場所へと転移しちまうんだ」
別の場所に転移する迷宮だって? これまた奇妙な話だ。
しかし、確かにその話が本当なら場所が分からないのも納得だな。
「今はギルド総出で居場所を追っているが、未だに把握しきれていない。ただ一つだけ分かった事がある。今まで観測された位置を確認すると、出現場所はある街の付近に集中しているのさ」
「その場所は一体?」
「――迷宮の街、"トランパル"」
"トランパル"。迷宮の街という異名を持つ、パンドラでも最大の都市の一つだ。
ダンジリアから北東、馬車で二日程かかる位置にあるこの街は、その異名通りこの街とは比較にならない程の迷宮に囲まれている。
大きなギルドや商会などもあり、この世界で一番栄えていると言っても過言ではない都市だ。
つまり黄金の迷宮は、数多くの有力な冒険者や迷宮測量士を抱えているその都市でも攻略出来ない迷宮ってことか……。
「実はね、トランパルから各地のギルドへ支援を求められているんだ。精鋭の測量士を送ってくれってね」
「……なるほど、俺の出番って訳か」
「察しが良いねジム、その通りだ。 もうちょっと後で話すつもりだったんだが、話題も出たし丁度いいと思ってね」
トランパルまで行くとなると、暫くこの街には帰ってこれないな。
仕事には困らないだろうが、慣れ親しんだこの街を離れるのには少し寂しさを感じる。
まあ長く滞在するとしても次の総転移までだろう、黄金の迷宮が無くなれば居る意味も無い。
「パパ、どこか行っちゃうの?」
そんな事を考えていると、ヘレンの傍に居たニーナがこちらに近づいて俺を見上げていた。
ちょっと不安そうな様子だ。
「心配するな、行く時はお前も一緒さ」
「……! うんっ! ありがとっ!」
ぎゅっと抱き付いてきたニーナの頭をぽんぽんと優しく撫でてやる。
もはや俺にこの子を置いて行く選択肢は無い。
ヘレンも恐らく承知の上だろう。トランパルのギルドにも上手く言ってくれている筈だ。
「ふふっ、微笑ましいね……さて、出発の日時についてだが、明後日の早朝、集合場所はこのギルドの前だ。当日はシエラも一緒に行くから、あの子の近くに居ればいいよ。分かったかい?」
「ああ、分かっ……ん? シエラもトランパルに行くのか?」
「各地から人を集めるってもんだから、向こうのギルドも人手不足みたいでね、経験を積ませるって意味でもあの子に行ってもらう事にしたのさ」
「こっちの受付とかは大丈夫なのか?」
「アタシがやるさ……って、何だいその本当に出来るのかって顔は」
そりゃただでさえこっちも人手不足なのに、ギルドマスターの仕事はどうするんだよ!?
「ぼ、僕も手伝いますから安心して下さい、ジムさん」
「ああ、そりゃ良かった。絶対手が回らなくなるからな」
カイルが手伝ってくれるなら安心だ。
本当、ヘレンは一人で色々やり過ぎだ。何でもできるスーパーウーマンなのは良いが人を雇え人を。
……っと、なんか説教臭くなっちまった。
「信用無いねぇ……ま、そういうわけだから安心して行っておいで」
「色々言いたい事はあるが、まあカイルに任せるよ……明後日だったな?」
俺は日時を再確認すると、浮かれている様子のニーナを連れてギルドマスターの部屋を出た。
トランパル、そして黄金の迷宮―― この先に俺達を待ち受けるものは何なのか。
俺は年甲斐もなく小さな冒険心に心を躍らせていた。
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