第223話 正義を持って正義を制す13


 永久機関の定義について詳しくは知らないが、実現不可能な技術であるということぐらいは俺でも知っている。


 そしてその永久機関を作る為に様々な人達が挑戦し、夢破れていった。


 そんな夢のような機関が今目の前に存在していると思うとそれだけで少し緊張してしまう。


「永久機関ってヤバくないか?」


 この事が外部に漏れれば日本に世界中の頭の良い人達が殺到するに違いない。


「いいえマスター!これは永久機関ではなく、半永久機関なので問題有りませんよ!それにこんなイカレた代物は人類には再現不可能なので大丈夫ですよ!時空間魔法の概念を人類が理解出来るとは到底思えないので!」


 違った。


 純の呟きに釣られててっきり永久機関だと思ったが、どうやら違うようで俺は気恥ずかしさを誤魔化す為にすかさず会話の流れを軌道修正していく。


 ちなみに純の顔は更に赤くなっていて千尋がチラチラと純の方を見ているが、俺迄恥ずかしくなるので出来れば今はそっとしておいてあげて欲しい。


「半永久機関でもヤバイだろ……それに人類をあんまり舐めない方が良いぞ?たとえ何年、何百年、何千年、再現するのに時間が掛かるとしても、その技術が存在しているという事実がある限り人はいつか再現してしまうよ」


 ベルは些か人類というものを甘く見る傾向にある。


 人類に期待していると共に諦念しているのだろう。


 人間の可能性を信じているにも関わらず決して人類を過大評価はしない。


 ベルというのはそういう奴だ。


「そうですかねぇ……でもマスターが言うのだからそうなんでしょうね!それなら今回の英美里専用機であるスラスターブーツの性能を落とした物を作ってみましょうか?」


 ベルの中ではこの新兵器を公表するつもりで話を進めているようで一般公開用の劣化品を作成する事も視野にいれているらしい。


「性能を落としたとして普通の人は扱えるようになるのか?」


「ある程度の肉体強度、出来れば音速移動に耐えられるだけの肉体強度を持った人でないと扱えない程度の性能になると思います!まぁ、そのぐらいの性能が無いと対モンスターとしてはあまり効果的では無いですし!」


 音速程度であれば正直今の俺達には不必要な物になるので残念ではあるが、俺達以外の冒険者が使うのであれば有用な気はする。


 だが問題は扱う冒険者の肉体強度だ。


 一般の冒険者が果たして音速移動に耐えられるだけの肉体強度があるのかどうか、些か疑問が残る。


「無理だな。現状、劣化版のスラスターブーツを作成した所で人間で扱えるのは精々が藤堂達ぐらいのものだろう」


 誰よりも冒険者に詳しいであろう千尋の意見。


「らしいぞ?それじゃ、作る意味が無さそうだな……もっと性能を落として一般人がある程度使えるようには出来ないのか?」


 ベルとしては折角開発した兵器を世に出してみたいというのもあるのだろうが、使い手が居ないのであれば何も意味が無い。


「そうですねぇ……エネルギーを循環させないのであればそこそこの物は作れますけど、それじゃモンスターに対してあまりにも効果が薄いと思いますよ?それに半永久機関も成り立たないのでそれこそただただ燃費の悪いだけのくず鉄になってしまいます。まぁそれでも一般人が扱う分には凄まじい物には仕上がりますけどね!問題は一般人が扱うには魔力が足りないのでどうにか外部から魔力を供給しないと駄目だってことですかね!」


「エネルギー循環は搭載したままに出来ないの?」


 純による当然の疑問。


「無理です!半永久機関を組み込むとなるとそれなりに性能が無いと不可能ですので!動かすのに必要な魔力以上の出力があって、且つ周囲に齎すエネルギーが多く無ければそもそもが半永久機関は成り立ちませんので!」


 初動に掛かる魔力コスト以上のパフォーマンス且つ、周囲に与える余波のエネルギーが多く無いと成り立たないという事らしいので半永久機関を組み込んだスラスターブーツ作るにしても最低でも音速程度は超えていないといけないのだろう。


「じゃあ半永久機関を搭載しないとして、外部から魔力供給する形で運用するスラスターブーツは作れるのか?」


「可能ですよ!ただ稼働限界がどの程度になるか、外部魔力供給の為の装置がどの程度の大きさになるかといった問題は残りますけどね!でもまぁそれは今後の研究次第という感じですね!」


 俺達全員がこの新兵器に期待している事もあって意見を出し合い、擦り合わせ、現実的なラインを探るこの感じがとても楽しいと感じている。


「とりあえず、まずは試作してもらってからまた話し合うのが良いかな?このまま机上で話し合いをしててもあんまり建設的じゃ無いからね!って事で次はガントレット?の説明をお願いね!英美里!」


 楽しかった時間もそこそこに純が纏めに入って議題が移る。


「はい!」























 大変楽しそうにガントレットについて語る英美里の話を聞き流しながら俺はまだスラスターブーツについてあれこれと考え続けていた。


 何とか頭に入って来た情報はガントレットの仮称が噴射手甲という事だけだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る