第221話 正義を持って正義を制す11
千尋と英美里の模擬戦が終わり、二人共が晴れやかな表情を浮かべながら和やかな雰囲気で握手を交わす。
「あっけない終わりだったな……英美里も負けはしたけど、まだまだ手の内がありそうな感じだったな」
恐らく今回の模擬戦での英美里の秘策はあの新装備で間違いないのだろうが、全ての手の内を晒した訳では無さそうな雰囲気を俺は感じていた。
「だね!あんなゴッツイ装備の機能があれだけ何てのは流石に考えられないからね!もっと色々出来る事がありそうでちょっとワクワクするよね!」
「漢の浪漫が詰まってそうな装備だと嬉しいなぁ!あの見た目なら間違いなくビームは出せそうだしな!アタッチメントとかでドリルとかに換装したりしたら最高だな!」
英美里が魅せてくれた新装備は俺の子共心を十二分に擽るものであり、新たな戦力への期待を促すには充分なインパクトであった。
「魔装が防御の為だけじゃない装備になる……うん!凄いね!でもそうなると色々と扱いが難しくなるねぇ!どうしようか?」
英美里が見せた新兵器、確かに夢があって良いものだし、かなり強力な物である事は間違いないがその分扱いは慎重にならなければならない。
純が俺に問うたどうしようかというのは世間に公表するのかしないのかという事や、今後の扱いの事だろう。
「どうしたら良いかな……純はどう考える?」
俺は気持ち的には公表したくないが、現実的に考えるのであれば公表した方が良いと思っている。
「私は公表すべきだと思うよ!あんなの間違いなく現代の科学だけじゃそう簡単に再現何て出来ないからね!だからこそ政治的な利用方法なんていくらでも思いつくから!」
純は政治的な利用の為にも公表すべきだと言う。
だが、この技術を公表すればいつかは誰かがこの技術に追い付くか辿りついてしまうだろう。
そうなった時に俺達だけで責任を取るのは不可能だ。
「死人が沢山出るとしてもか?」
「それは……そうだね。それでも、例えそうだったとしても助かる命が増える事には変わりないよ」
「そっか……まぁそうなのかもな」
純の考えは理解はできる。
兵器は所詮兵器でしかない。
扱う人がどう扱うかでその真価は変わる、変わってしまう。
守る為に使えば救える命は増えるし、奪う為に使えば失う命は増える。
それだけの話、至極単純で簡単な話。
だけどとても難しい話だ。
「ねぇ、拓美君。世界中でダンジョンによって亡くなる人がどれだけ居るか知ってる?どれだけ亡くなった人が居るか知ってる?」
真っ直ぐに会場を見つめる純の横顔を眺める。
「知らないな……知りたくも無いけどな」
何か覚悟を決めたその表情は何処かこの話の重さを物語っているようで空気が張り詰めた気がした。
「そっか……じゃあ言わない!けどね、沢山の人達が理不尽に死んでる。今も昔もこれからもそれは多分変わらない。そういう世界だからね!それでも誰かが何かをすればきっと救える命は増えるんだよ。だけどね……誰かが何かをしないと何も変わらないんだよ、良くも悪くもね!だから私は誰に恨まれようが、何と言われようが守る為の力に成り得るのであれば利用するべきだと思うんだ。それが私達が声を挙げた意味と責任だと思うからさ」
新たな兵器によって救われる命と奪われる命を天秤に掛けて、純の天秤は救われる命に傾いたのだ。
それがどれだけ人に恨まれる事なのかを知りながら。
強いと思った。
敵わないと思った。
今も昔もこれからも、俺はきっとこの人には一生負け続けるんだと改めて思い知らされた。
出会った頃から変わらない心の強さがこの人の強味であり、弱味でもあると俺は知っている。
自分の気持ちに正直で真っ直ぐで曲がらない事を知っている。
色々な手練手管を用いてでも我を通す芯の強さを知っている。
陰ながら自分の行動を嘆き悲しんでいる事を知っている。
それでも折れない意志の強さを知っている。
だから俺はこの人に憧れ、嫉妬し、敬愛した。
そんな俺にとっての愛する妻が覚悟を決めたなら俺の気持ち何てどうだって良いだろう。
「それじゃあ利用できるだけ利用しようか!」
出来るだけ笑顔で、明るい声で、俺は純に笑いかける。
暗くならないように、一人で責任を感じさせないように。
「ありがとう拓美君。君は本当に素敵だね!流石は私の旦那様だ!これからも君に寄りかかりながら頑張るから……倒れないように支えてくれよ?」
俺の腕にしがみついてくる愛妻を抱き締める。
「任せとけ!」
「新装備を公表する?別に私は構いませんが、技術的に再現は不可能だと思いますよ?」
試合後に挨拶に来てくれた英美里に新装備の事を相談したが不思議そうな顔で返された。
「再現不可能だとしてもこいつがあれば普通の人でもかなりモンスターとやり合えるんじゃないか?魔装で魔導具みたいなものだろうし」
「確かにモンスター程度を駆逐するのは容易いですが、普通の人では扱えませんよ?もしも普通の人間が使用したら、良くてバラバラ悪くて木端微塵ですよ?」
「おぉ……」
「こんな火力の事しか考えていないピーキーな兵器が反動無しな訳無いだろう……まこちゃんは本当にアホだなぁ!まぁそこが可愛くもあるんだがな!なぁ、純?」
「そうだね!ホントに拓美君ってばアホ可愛いよね!」
「お、おぅ……?まぁよくよく考えればそうだよな……?」
俺は純の真意が分からなかったが、耳を真っ赤にしている純が可愛かったので黙する事にした。
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