第125話 しふくの時と言われても12


 赤子をあやすように優しく、母性全開の純による甘やかしを甘んじて受け入れながら待つ事数分。


「とーちゃくです!お待たせしました!早速良さそうなダンジョンを見つけたのでそちらに向かいましょう!」


 コアルームに勢いよく飛び込んできたベルに皆が驚いている。


「良し!じゃあ行くか!」


「はいマスター!」


「……」


 驚き固まっている皆を他所に俺とベルはコアルームから脱して、ダンジョンの外を目指す。


「ちょっ!待って待って!」


「とりあえず外に向かいながら話すから、早く来ーい!」


後ろを確認して全員コアルームから出てきたのを確認してから、走ってダンジョンの外を目指した。



 ☆ ☆ ☆



「まさか本当にベルが来るとは思わなかった……」


 中国最大のダンジョンを攻略し、帰り道でベルがここに来た目的を説明し、無事外に出てきた俺達はベルが発見した中国の未発見だと思われるダンジョンへと向かった。


「このぐらいの距離ならひとっ飛びです!」


 大分中国間がひとっ飛びであるならもはや何処の国でもひとっ飛び出来ると俺は思う。


「移動速度がおかしいね!……時速換算で大体2万kmぐらいはあると思う!」


 時速2万kmはマッハ20、音の20倍の速度だ。


「生物が出して良い速度を超えてる気がするな……」


「ベルは凄いって事だな」


「とりあえず北京からあまり遠くない山にあったので、ここにしました!サクッと攻略しちゃいましょう!」


 ベルが山の中にあるウサギの巣穴のような場所を指差す。


「ちょっと待て!ここがダンジョンなのか?小さすぎて入れないぞ?」


「広げちゃいます!よいしょ!……中は結構広いですよ!」


 ベルが拳を握り巣穴を殴ると地面が爆ぜた。


 そこには人が充分に通れるだけの穴が出来ていた。


「行きますよー!」


「……」


 もはや何も言うまい。


 俺は黙ってベルの後ろを着いて行く。


 先導をベルに任せて巣穴洞窟の奥へと進んで行く。


 道中モンスターは殆ど居らず、居てもゴブリンが数体ずつなのでベルが先導の片手間で討伐してくれた。


「到着です!第一階層しか無いダンジョンは手軽に攻略出来て良いですね!」


 手軽に攻略は出来るのかもしれないが、発見するのが困難であるのは間違い無いだろう。


 コアルームを発見し中へ入ると今までと同様に白い部屋で部屋の真ん中には台座に鎮座しているダンジョンコア。



「攻略するのは番長か助手ちゃんか……」


「助手ちゃんが先で良いっすよ!」


「でも……」


 番長が助手ちゃんに先にダンジョン攻略者になって良いと言うが、助手ちゃんは遠慮しているようだ。


 小さな体でもじもじしている助手ちゃん。


 困って助けを求めるようにリーダーをチラ見する助手ちゃん。


「私より助手ちゃんが先に攻略者になった方が研究も捗るかもしれないっす!だから助手ちゃん!早く攻略者になるっすよ!」


「ありがと……」


 意を決した助手ちゃんが皆に見守られながらダンジョンコアに触れ、砕けたダンジョンコアの破片が助手ちゃんに吸い込まれるように消えていった。


「では!ここからはベルのターンです!ダンジョンコア作成!設置!メイズメイズ!信心教育!」


『おはようございます』


「おはよう!気分はどう?」


『分かりません』


「そかそか!とりあえず!DPを分けてあげるから、ダンジョン間転移門の設置とダンジョンの隠蔽をしようね!」


『了解』


「マスター達は飛行機で帰ってきてください!私はこの子と少しお話してから転移門で家に帰ります!」


「りょーかい、じゃあまたな!」


「はいマスター!」


 ベルに促されるままに一旦ダンジョンの外へ出る。


 ダンジョンの外に俺達が出ると、ベルが拡張したダンジョンの入り口が土に覆われ、最初に来た時の様にウサギの巣穴程度の穴に変化していった。


「……逆再生の映像見てるみたいでちょっと不気味だな」


「G-SHOP解禁した……」


「おぉ!おめでとうっす!スキルは何だったっすか?」


 番長と助手ちゃんが仲良く会話しているのを皆で見詰めながら今後の事について少し考える。


「鍛冶場生成……帰ったら色々試す!」


「やる気満々っすね!」


「うん!……ありがと!」


 主要メンバーが居ない間は極力ベルには怠惰ダンジョンに居て貰いたい所ではあるが、ベルの尋常じゃない移動速度が発覚した今、別に外に出ても大丈夫な気がしている。


 そもそもベルの本体は常に怠惰ダンジョンに居る訳で、何かあればベルの体が不在であってもどうにか出来ると思う。


 今までは怠惰ダンジョン以外の未知の戦力に怯えていたが、それもそこまで怯える必要が無いのでは無いかと感じている。


 正直俺達を超える未知の戦力があるとは考え辛い。


 世界が変わって約2カ月、俺達以外にダンジョンと繋がっているであろう人、団体、国は出てきていない。


 警戒し過ぎて俺達の動きが制限されたままでは何時か怠惰ダンジョンを超える存在が育ってしまう可能性を考慮しないといけない時期に差し掛かっている気がしてならない。


「鍛冶場生成か……まこちゃん以来の生成系か?」


「だね!今の所召喚系か生成系しか無いから、基本はこの二つの分類になるのかもね!まぁまだサンプルが少なすぎて何とも言えないけどね!」


「主と同じ……私だけ……!」


 自分達の身を守る為にも他所からの干渉を跳ね除けるだけの力と影響力があれば、俺の目指す共存共栄の道も遠くない。


「拓美!呆けてないで帰るぞ!腹が減って仕方が無いわい!」


「りょーかい」


 あれこれ考えるのは無事に帰宅してからにしよう。


 とにかく今は早く家に戻りたい。



 ☆ ☆ ☆



 ホテルに着いて夕食を食べに行って、今はホテルに帰って来て意識をサブキャラから本体に切り替えた。


「疲れてんなぁ……」


 疲労からか頭があまり働かない。


「しっかしこんな時間でも対応してくれる日本大使館の職員さんには感謝感謝だな……」


 千尋、純、一馬さんの三人は食事を終えてから日本大使館の職員さんにダンジョン攻略が終わった事の報告と明日帰国するという事と中国政府とのやり取りについてのあれこれを相談しに行った。


「難しい事は純に任せておけば大丈夫だろ……ひと眠りしよう」


 緊張の糸が切れたせいか、睡魔が襲って来た。


 俺はそのまま睡魔に身を任せる事にした。


























 目が覚めて自分が部屋の布団で寝ている事に気付く。


「今、何時だ?」


 部屋の時計に目をやれば、ホテルのチェックアウトの時間にはまだ余裕があった。


「とりあえずサブキャラに意識を……」


 サブキャラに意識を戻すとホテルのベッドの上。


「……おはよう」


「あぁ、おはようまこちゃん。もうすぐチェックアウトして空港に向かうぞ」


「おう!起きたか!さぁ!帰るぞ!」


「次来る時は観光旅行が良いな……」


 結局中国ではダンジョン攻略以外は何も出来なかった。


 次の機会があるのなら、観光ついでに美味しいもの巡りをしてみたいものだ。








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