第116話 しふくの時と言われても3


 居間で中国遠征についての軽い打ち合わせを行う。


「移動は飛行機で行くとして……問題はパスポートはおろか日本の国籍すら持っていないリーダー達をどうやって中国に入国させるかと俺のアバターをどうやって持って行くかだな……」


「リーダー達の国籍とパスポートは用意したから問題無いよ!後は拓美君のアバターをどう運ぶかが問題だね!」


「それはどういう事だ?」


 想定していない事実を告げられ、驚愕する。


「慎ちゃんには湯布院合宿ダンジョンでは人間以外の人達が居て、私達に協力してくれている事とリーダー達と軽く会話して貰って国籍とパスポートを発行して貰ってるよ!慎ちゃんは基本的には冒険者協会に味方してくれる頼もしいお方です」


 純が政治のトップと裏で色々と取引をしていたのは知っていたが、そこまで話をしているとは思って無かった。


「もうそこまで話が進んでるのか……」


「まぁね……拓美君にも言おうとは思ったけど、何だかんだで反対するだろうなぁと思って事後報告にしました!ベルにはちゃんと相談して、出すべき情報の精査はしたからね!……ごめんね勝手に話を進めて」


 俺の知らない所で話が進んでいる事については別に怒るつもりも無いし、俺が反対意見を出していただろうという純の考えも合ってると思う。


 俺は今でもリーダー達の存在を公表するのはまだ早いと思ってる。


 俺達の持つ力もまだまだ足りていないし、世間のダンジョンやモンスターについての考え方もまだまだ好意的なものは全くない。それに冒険者協会という組織を通してダンジョンの有用性とダンジョンと共存出来る仕組みがある程度世間に浸透してからでも遅くは無いと俺は思っていたからだ。


「事態は結構深刻だって事は分かってる。分かってるけど、それは世界的に見ればの話しで日本という国から見ればそこまで深刻な事態にはまだ陥ってないのも事実だろ。だから俺的にはもう少し時間を掛けても良いと思ってるよ。でも……ベルや純が話し会ってこういう風にするって決めて動いたんなら俺はそれに従うよ。俺なんかよりも頭が良くて沢山の人を救う為に動いてるのは知ってるから」


 俺に相談しなかったのは俺にそれだけの信頼が無かったからに他ならない、これは俺の落ち度だと思う。


 俺がもっと優秀で、持つべきものとしての責務を果たそうとしていればきっと純は俺にも相談してくれていたと思う。


「まこちゃんが今何を考えているのかは大体想像がつくが……まこちゃんを信頼していないという事では無いという事だけは分かってくれ。まこちゃんの意見も正しいんだよ。正しいけど、それは私と純の思い描いている未来とは違う未来になると思ったから私達は私達で勝手に動いたんだ。本当にすまない……事態はとても急を要するんだ、云わば今回の件は緊急事態であるからこそ起こった事だと理解してくれるとありがたい……」


「分かったよ……結局ダンジョンを攻略するって事には変わりないんだしな……違いがあるとすれば場所が日本じゃないって事とリーダー達が世間に公表されるって事だけだしな。結果的にはリーダー達がこれで日本国民になれたって事を喜ぶべきだな!」


 秘密裏にではあるが、世界で初めてダンジョン生まれの種族が住民として登録されたのだ。


 これは歴史的にみても快挙だと思う。


 こんな英断が出来る人が政治のトップにいるという事が俺達にとってどれだけ幸運な事か。


「気を取り直して……拓美君アバター問題をどうするかを話し合おう!」


 話を戻して議論を再開する。


「その事なんだけどさ……まだ試して無い事があるから試してからで良いか?」


 俺はレベルが200を超えてから得た、新しい能力がある。


 それはサブキャラクターというアバターの新たな機能。


 アバターはダンジョン用だが、サブキャラクターにはそのような記述は無い。


 ダンジョン用アバターのサブキャラ扱いなのでサブキャラもダンジョン外では使用不能だと思う。


 それでもレベルが200を超えて増えた新機能なのだから少しぐらいは期待しても良いと俺は思うのだ。


「ちょっと行ってくる!ベル!一応着いてきてくれ!」


「かしこま!」


 ベルを伴ってウチの敷地ギリギリの所まで向かった。


「ここから先は敷地外だから、ダンジョンじゃない……前に試した時はここをアバターで超える事は出来なかった」


「ですね!」


 俺は怠惰というスキルを得て、娯楽神の加護というもの得て、運良くダンジョン攻略を果たしG-SHOPというものが使えるようになり、ダンジョン用アバターというスキルを身に着けてから約2カ月の間自分の足で敷地外に出た事は無い。


 それは怠惰というスキルのデメリット効果を発動させない為だ、俺自身が何かをしようすると怠惰スキルは俺に牙を剥く。


 そのデメリットを発動させない裏技がアバターだ。


 だがアバターはダンジョン内でしか使う事が出来ない。


 だからこそ、俺は今日まで自分の足で敷地から出る事無く、他のダンジョンの攻略に出向く時でさえ俺のアバターを運んで貰っていた。


「たぶん出来ると思うんだよな……任意地点投入!」


 俺は敷地外にサブキャラ1を呼び出した。


「任意操作!」


 アバターとの同時操作はまだ出来ないので、一旦サブキャラだけに集中して操作する。


「……出来た……出来たぞ……!」


「おめでとうございますマスター!これで怠惰の呪縛から解放されましたね!これでデートにも出掛けられますね!」


「とりあえず家に戻ろう!」


























 遂に俺は怠惰スキルのデメリットを発動させる事無く、ダンジョン外での活動が可能になった。


 これで俺は元の生活に近い生活を送る事が出来る。


 確かに俺は出掛けたりするのがあまり好きじゃ無かった。


 どちらかといえば引き籠りがちのインドア人間だった。


 それでも2カ月の間、買い物にも出かけられず、折角嫁が出来たのに碌にデートにも行けないのは流石に精神的に辛い事もあったのだと今更ながらに感じている。


「千尋!純!デート行こうぜ!」


 我が家に帰って、開口一番出た言葉がこれだった。


「「うん!」」


 明日からの中国旅行は、ハネムーンになりました。








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