第37話 小さな発見は大きな事件10


 鬼人 (番長) LV1


 スキル 忍術/体術/投擲術/気操作/家政婦道


 加護 鬼神の加護



・忍術 忍術を行使する場合、効果上昇

・体術 体術を行使する場合、効果上昇

・投擲術 投擲物を扱う場合、能力値上昇

・気操作 気を扱う場合、操作性上昇

・家政婦道 家事作業を行う際に能力値上昇


 鬼神の加護

・鑑定 (鑑定対象の情報が分かる)

・同類言語理解 (同類の言語が理解出来る)

・アイテムボックス (自身に所有権のある物を収納出来る)

・鬼神の鬼謀 (戦略に関する知識の理解力上昇、窮地の際に能力値上昇)



「家政婦道ってなんなんだとは思わなくも無いが、これがあるからお手伝いを許されたって事なんだろうな……」

 忍術とか体術とか気操作とか気になるものはあるが、もっとも注目すべきなのは<鬼神の加護>だろう。

「鬼神の加護か……これでまた神の加護持ちが増えたけど<娯楽神の加護>とはまた違う感じだな。どちらかと言えば<植物神の加護>に近いのかな……加護にも上下のランクみたいなのがあるのか?」

 隣でエルフルズに餌付けされているベルに問いかけた。

 エルフルズに貰ったリンゴを齧るのを止めて口の中身を飲み込んでからベルが口を開く。


「はい、マスター!私の考えではランクが違うと言うよりも、齎される効果が違うだけだと思いますよ。マスターの<娯楽神の加護>は経験値を取得出来て、能力値と成長値上昇効果も付いていますが<特殊技能>は齎されません。ですが<植物神の加護>は植物に関する知識の理解力上昇、植物との親和性上昇だけでは無く<特殊技能>として<植物魔法>が付随されています。ですのでどちらが上か下かは無く、あくまでも本人次第でしか無いというのが私の考えですね!」


「なるほど……そういう考えもあるか……」

 ベルの考察を聞いて納得した。

 という事は<鬼神の加護>にも何かしら特殊な技能が付随しているって事なんだろう。

 ならば是非とも聞いておきたい番長の持つ<特殊技能>について。



「番長!ちょっと聞きたいんだが」

 台所に居る番長に居間から話かける。

「はいっす!」

 子気味良い返事と共に番長が台所から居間へと現れた。

「<鬼神の加護>があるからこそ使える技みたいなものってある?」

「はいっす!<鬼神化>というのが使えるっす!簡単に説明しますと鬼の様に強くなるっす!」

 シンプルな能力だが見ない事には何とも言えない。

「ちょっと見せてくれないか?」

「了解っす!<鬼神化>」

 掛け声とともに鬼神化した番長。

 頭の角が伸びて髪も解けて、黒い髪も真っ白に変化しておりさっきとは明らかに違う見た目と恐怖を感じる程の凄まじい圧力を受けた。

 呼吸がうまく出来ない、冷や汗が止まらない、これが鬼神化の力なのかと冷静に分析しながら番長に片手の平を突き出してストップの合図を送る。

「こんな感じっす!結構疲れるんであんまり使えないのが欠点っすね!じゃあ、お手伝いに戻るっす!」

 言うやいなや台所に戻って行った番長の後ろ姿に見惚れながらもベルへと顔を向ける。


「鬼神化ってやばくない?」

 シンプルな感想をベルに伝える。

「はい!マスター!鬼神化されれば私でも倒すのに少し時間がかかりますね!かなり頑丈になるので!」

 既に一度拳を交えたかのようなベルの発言、それもベルが勝利したかのような言い方だった。


「もう闘ったのか?」

「はい!マスター!生成した時に少し生意気な事を言っていたので、ちょちょいとやってやりましたよ!」

 胸を張りながらさも当然のように語られる事実。

 アホ可愛い。

「そうかそうか……すごいなベルは!」

 思わず頭を撫でくり回したくなるが堪える。

「はい!マスター!<怠惰ダンジョン>最強はまだ誰にも譲るつもりはありませんから!」

 笑顔のベルを見ていると安心する。

 守ってもらいたいこの笑顔に。



 ☆ ☆ ☆



「ごちそうさまでした!」

 今日も美味しいご飯を食べ終えた。

 麻婆茄子と餃子と酢豚という中華三昧な夕飯、とても幸せでした。


「じゃあ、そろそろ帰るよ!また明日!」

 千尋が食事を終えて直ぐに帰ると言って立ち上がり荷物を持つ。

 

「コーヒーは?」

 食後の一杯も飲まずに帰ろうとする千尋を呼び止める。

「いや、今日は遠慮しておく。あまり遅いと両親が変な勘繰りをしてきて面倒だからな……まぁ責任を取ってくれるなら泊る事もやぶさかではないが……」


 顔を赤らめ十代の乙女のように恥じらいながらチラチラと俺に視線を送ってくるが鋼の精神でグッと堪えて、立ち上がり真っ直ぐに目を見て返事を返す。


「どうなるかは分からないが、明日先輩と話をして答えを出すよ。不誠実だし、クソ野郎だって事も自覚してる。それでも先輩もお前も好きなんだ、だからもう少し俺の我儘に付き合ってくれ」


 頭を下げる。

 ずるい男だと思う。

 でも嘘はつきたくない。

 それすらもただの我儘な事も自覚している。

 どうしようも無い程のクズだって事も。


「はぁ……もういい、頭を上げろ。まこちゃんが悪いのは事実だ、でも全てがまこちゃんのせいじゃないって事も事実だ。だからこそ私は明日、本気でまこちゃんを堕としに行くからな覚悟しておけ!」


 泣きそうな顔を見られたくないのか足早に玄関へと向かう千尋をただ見ているしか出来なかった。


 家の外から車のエンジン音が聞こえたと思ったら、音はすぐに遠くへと消えて行った。


「なんでこうなっちまったのかな……」

 居間で立ち尽くして黄昏る。


「はい!マスター!それは一人を選ぼうとするからです!全員を娶ってしまえば何も問題ありません!私は正妻で無くとも構いませんからね!」


「人が黄昏ているのになんて事を言うんだろうかこのアホは。まぁでも確かに、俺はそれが理想だけど?でもそれは現実的に無理じゃん?っていうかベルって元々戸籍とか無いから無理だけどね!……実際問題、先輩には断られるだろうから俺は千尋と結婚したいと思ってるけど、ケジメとして伝えとかないと千尋も良い気分じゃないと思うんだよ……まぁ既に良い気分では無いだろうけどな……」


「ですから!一夫多妻で良いではないですか!魅力的な人に多くの異性が集まるのは自然な事です!何も問題ありません!なので今夜あたり、私と……ね!マスター!」 


 人の話を全く聞かないベルは放っておいて自席に座る。


「コーヒーをお持ちしました」


 空気を読んでいたのか、いつもより遅めのタイミングで英美里がコーヒーを持ってきてくれた。

 こういう気遣いがベルにも出来れば良いのにと思ってしまうのは俺の我儘なんだろうな。

「いつもありがとう」

「いえ、これが私の仕事ですから」


 皆で食後の一杯を飲む、幸せを感じる。

 新しく仲間も増えて更に賑やかになった食卓、少し前までは俺しか居なかったのに。

 家族は今後も増えていく、少なくとも鬼人とインテリ悪魔は内定している。

 これからもっと大きくなるであろう<怠惰ダンジョン>だが俺自身はやることが何も無いし、何もしてはいけない。


「というか本来なら選ぶ側じゃないんだよなぁ……しょうがないからとか、妥協する相手として俺が選ばれる立場の筈なのに!」


「それは違うっす!児玉っちは選ぶ側っすよ!ハーレムっすよ!」

 番長もカップを片手に席へと座り、謎のハーレム推し。

「まぁ今はそうかもな……一応ここのトップだし!見た目もちゃんとすれば結構良いって美奈も良く言ってくれてたし!」

 軽く胸を張ってドヤる。

「いや、見た目とか関係無いっす!大事なのは力っす!」

 力説する番長、ブラックは苦手なのかカフェオレを飲んでいた。

「では、こうしませんか?」

 今まで聞き役に徹していたリーダーが不意に喋り出した。

「千尋さんも先輩さんも諦めて私達全員を娶る。これで万事解決です、ハーレムを許容出来ないのであれば妻になる資格は無い!この線でどうでしょうか?」

 急にとんでも無い事を言い出したリーダーの意見に俺以外の全員が賛成だなんだのと騒ぎたてる。

 分が悪いので逃げよう、俺は今は先輩と千尋のどちらかとしか結婚するつもりは無いのだ。


「良し!解散!俺は部屋に戻る!」


 強引に場を締めてそそくさと部屋へと帰る。

 アニメやゲームでは当たり前に思ってたし、羨ましいとも思っていたが現実にハーレムを作る気は俺には無い。

 というよりも自信が無い、本音を言えば先輩も千尋も嫁にしたいが二人ともを幸せに出来る自信が俺には無いし、そもそも二人とも納得してくれないだろう。

 世の中には実際にハーレムを築いている人も居るだろう、だが日本ではその文化は既に衰退しているし、悪だと言われるだろう。

 ぶっちゃけ甲斐性さえあれば問題無いのだろうが、そうそうまくはいかないと思ってしまう。


「マジでハーレムルートが一番理想なんだけどなぁ……どうにか出来ないかなぁ」

 部屋でネトゲを起動しながら呟く。

 段々とハーレムへの思いが湧き上がってきていた。


「男の憧れだよなぁ……」

 ログインすると<さひろう>こと千尋もログインしていた。


「俺が物語の主人公なら、ハーレムルートにいけたのかなぁ……」

 千尋からPTの招待が届いた、特にやる事もないのでPTに入る。


『まこちゃん』

 念話が掛かってきた。

『あい、何やんの?』


『いや特には無い。それと何か色々悩んでいるみたいだが、末永先輩はどうか知らんが私は正妻にしてくれるならハーレムでも構わないからな』















『ま?』





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