第21話 世界が変わっても人間そんなに変わらない8


 しょうもない勘違いから恥を掻いた後、アバターを確認する為に玄関へと向かった。

「でも結局何が原因でアバターの操作が出来なくなったんだ?」

 玄関で靴を脱ぐ途中で止まったままのアバターを見下ろしながら呟くとその呟きに対して英美里が推測を立てる。

「恐らくですが燃料切れかと思います、アバターから魔力を感じませんので」

「魔力が無い?ってことはアバターは魔力で動いてるってことか?でも昨日まではこんなすぐに動かなくなるなんて事は無かったけど?」

 昨日よりもアバター操作を行った時間は少ない筈、だが今日はすぐに魔力が無くなったのか操作を強制解除させられた。

「はい、ですが昨日までとは違う事もあります」

 英美里は既に答えにたどり着いているのか俺を答えに誘導するように情報を小出しにしてくる。

「昨日とは違う事といえば……身体能力同調と味覚機能の追加?」

 俺は昨日までとは違う事を羅列した。

「ちなみに現在のご主人様の魔力量は昨日よりも増えています」

「俺自身の魔力量は増えている……」

 今分かっている情報からアバターについて考察をしていく。

 暫く玄関で考えながら、メモ用にノートを取り出し情報を書き込んでいき考察をメモにまとめていく。


「検証しないと確証は持てないが俺なりにアバターの仕様について考えたんだがどうかな?」

 アバター考察メモを英美里に見せる。


 アバター考察メモ

・アバターは魔力で動く

・アバター自体に魔力が無くなれば操作出来ない

・本体の全体性能が上昇した為身体能力同調したことで消費魔力も増加している?

・アバターの新機能に魔力量同調と魔力量増加の項目が増えていたのでアバター自体の魔力量問題は解決可能であると考えられる

・アバターへの魔力量供給方法は不明


「はい、概ねあっていると思います。付け加えるとすれば、全力疾走等の大きなアクションや新機能の使用でも消費魔力は増えていると思いますよ?アバターの行動には対価として魔力が使用されているはずですから」


「なるほどね……とりあえず魔力量同調を追加しないとすぐに燃料切れを起こすって事か……じゃあ魔力量同調を追加した場合魔力量増加はどうなるんだ?必要無くなるよな?」

 概ねアバターの仕様が分かってきたが更なる疑問が浮上してきた。

「そうですね……追加してみないと確証はありませんが、考えられるのは……本当に不要な場合と予備燃料としての役割を果たすとかでしょうか」

「不要か予備燃料、予備燃料ならいわゆる保険的な意味合いで機能するかもって事か……優先度は同調よりは低いな」

「アバターについて今後も分かる事が増えていくと思いますので、まずは同調を追加して検証しながら色々考える方が良いかと」

「そうだな!情報を集めて、また不都合とかでればその時また考えれば良いしな!」


 考える事をやめてとりあえずアバターを回収しようとアバターをアイテムボックスに収納する。


「でも結局魔力切れを起こした場合の魔力の補充方法が分からないと今日はアバター使えないんだよな……」

 今後の見通しは立ったが、現状の問題は何も解決していなかった。

「ご主人様、アバターを取り出してくれませんか?」

 何か考えがあるのか英美里がアバターを出してくれと言ってきた、断る理由も無いの一度頷き返しアバターをアイテムボックスから取り出した。


「やはり……アバターに魔力が補充されていますね。先程アイテムボックスにアバターを収納した時にご主人様の魔力が減りましたのでそうでは無いかと思ったんですが、間違い無いようですね!」

 魔力が補充されていると聞いて早速アバターの操作を再び開始した。

「ホントだ!アイテムボックスに収納すれば魔力は補充できるのか!これで今日もアバターで色々出来るな!」

「はい、そのようですね!では検証の為に一度全力で走ってみては頂けませんか?アイテムボックスに収納しなければ魔力は補充出来ないのかが知りたいので!」

 どこか楽しそうな英美里に促されアバターで外へと出る。

「ちょっと畑まで行ってすぐに戻ってくるから!」

 言うや否や全力疾走を始めた、畑まで辿り着いたがエルフは今日の仕事が終わったようで既に居なくなっていた。

「仕事が早いな……」


 家まで戻ってきて操作を一旦やめて英美里に魔力量の確認をしてもらう。

「どう?減ってる?」

「はい、もうほとんど残っていませんね。それと行動によって使用する魔力は変化していました」

「ありがとう!」

 行動によって使用魔力も違う事が分かったので次は魔力の補充方法の検証をしてみる。

「まずはそのままアバターに触れてみてください」

「わかった!」

 言われるままにアバターに手を伸ばし軽く触れてみる。

「どうだ?」

「補充されてませんね……次はアバターに魔力を注ぎ込むようなイメージで触れてください」

「イメージ……」

 俺の妄想力を駆使して、俺の中の何かがアバターに吸い込まれるようにイメージしながら手を触れる。

「どうだ?」

「成功です!ご主人様の魔力が減って、アバターの魔力が増えました!これでアイテムボックスに収納せずとも魔力の補充が出来る事が分かりましたね!では朝食に致しましょうか!」

「そうだな!」


 無事アバターの検証も終了したところで遅めの朝食を取るためにアバターを収納してから家に戻って行った。



 ☆ ☆ ☆



「ごちそうさまでした!今日も美味しかったよありがとう!」

「お粗末様でした。ごちそうさまです、後片付けしちゃいますね!ちなみにお昼は何か食べたいものはありますか?」

「んー……お任せで!」

「はい!ではお昼もお任せください!」

 何がそんなに嬉しいのか満面の笑みを浮かべながら後片付けを始める英美里の背中を見送って、満腹感の心地良さに身を任せて何も考えずにぼーっとしていると声を掛けられる。

「食後のコーヒーです!」

「ありがとう……」

 何もしなくてもご飯が出来ていて、食後のコーヒーも用意してくれる幸せに浸りながら今日はこれから何をしようかなとゆったり考える。


「なーんもする気起きないなーどーしよー2度寝しよーかなー」


 ゆっくりと時間が過ぎて行って気付けば英美里も席に着いて何かを飲みながらこちらを見つめてくる。

「あれ?もう片付け終わったの?」

「はい、ですので休憩中です!」

「そっかぁ」


 特に何か話すでも無く二人で同じ時間を共有しているとベルから念話がかかってきた。


『マスター、おはようございます!』

 今日もベルは元気一杯だった。

『おはよう……どうした?なにかあったか?』

『はい!マスター!エルフ達のおかげもあって転移門の設置と新階層の増築の目途が立ちました!』

 ベルから予想外の報告を受けて驚く。

『もう出来るの!早くない?』

『はい、マスター!貯蓄分のDPを使えば可能な段階です!ですからマスターに提案と相談をと思いまして』

『提案と相談?』

『はい!マスター!それで提案なんですが転移門の設置を後回しにして、<ランダムスライムスポナー>を先にして戦力強化とDP稼ぎをしませんか?という相談です!』

 よくわからない単語が飛び出してきて困惑しながらもベルに説明を促す。

『まてまて、<ランダムスライムスポナー>ってなんだ?』

『はい!マスター!<ランダムスライムスポナー>は魔力を使ってランダムなスライムを自動で生成してくれる装置です!』

 ベルの説明でなんとなくだが理解したが、目的が良く分からない。


『それを設置してどうするんだ?』

『はい!マスター!現状エルフ達も英美里もレベルが上がっていません、それは経験値を得られていないからです!ですのでこの装置を設置して、英美里の有り余る魔力を使ってスライムを生成して、スライムを討伐して経験値を得てついでにDPも回収しましょうって事です!』

『なるほど理解はした、危険性は?』

『はい、マスター。その辺も抜かりありませんよ!そもそもこの装置は罠の一種ですから誰かが触れなければ発動しませんから新階層に隠して設置して置けば安全ですし、事故で誰かが触れてスライムが生成されても英美里が居ればどのようなスライムが出てきても討伐可能です!』


 ベルの話を聞いてメリットは多くデメリットも然程気にならないような事らしいので、まぁベルに任せとけば良いかと返事を返す。

『分かった、危険性が無いのであれば俺は良いと思う。実際レベルも上げれてDPも稼げるなんてメリットだらけだし、ベルに任せるよ』

『はい!マスター!では明日までに新階層を作成して<ランダムスライムスポナー>の設置を完了させますので完成次第連絡しますね!ではまた!』

『うん、程々に頑張れよ』


 ベルからの提案を受け入れ<怠惰ダンジョン>に新たな階層と戦力増強の手段が増える事が決定した。



「俺もアバターでスライム狩りとかやってみたいしな……」

 アバターを使ってスライム狩り、フルダイブ型VRの世界が更に進化しそうな出来事にわくわくが止まらなかった。



 ☆ ☆ ☆



 明日稼働予定のスライム狩りに胸を躍らせながら、今日はこの後何をしようか再度考えるが何もすることが無い。

 まぁたまには良いかと、久々にがっつりネトゲでもしようと英美里に話しかける。

「英美里、今日はもうやる事無いしがっつりネトゲでもしようかと思ってるんだが……なんかやる事あるっけ?」

「いえ、特には無いですね……ところでご主人様、私も一緒にネトゲをやってみたいのですが駄目でしょうか?」

 英美里の突然のお願いにあまりの嬉しさで笑顔が溢れてくる、リアルの知り合いというか家族と一緒にネトゲが出来る日が来るなんてと。

 なので俺はすかさず決め顔で答える。





「だが断る」




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