第9話 始まりは突然に9


 ベルの報告により、衝撃の事実が発覚した。

 「ちょっと整理させてくれ、<怠惰の業>が発動した、おおよその時間とかって覚えているか?」

『はい、マスターおおよその時刻なら把握しております』

「流石ベルありがとう、では最初に<怠惰の業>が発動したのは何時だ?」

『はい、マスター最初の時刻は8時10分頃から5分程の時間<怠惰の業>の発動が確認できています』

「8時10分か……」

 そう呟いてから、ズボンのポケットにしまってあった携帯電話を取り出し、通話履歴を確認する。

「なるほど……店長に電話を掛けたタイミングなのか……」

 自分が思っていた以上にスキル<怠惰>の扱いは面倒だと感じながらも、とにかく今は<怠惰の業>の発動条件を把握する為に更にベルに問いかける。

「ありがとうベル、次は何時頃かな?」

『はい、マスター次の時刻は8時20分頃から20分程です、最初よりも長い時間<怠惰の業>が発動していたので、とても心配しました』

「すまんな、心配をかけて……8時20分頃は……」

 今度は携帯のメッセージを確認する。

「美奈にメッセージを送ったのが8時15分だから……」

 妹にメッセージを送ってからの自分自身の行動を振り返り思い出す。

「…………その時間は朝飯作ってたよな?……おいおいまさか……飯作るだけで発動すんのかよ!どんだけ面倒なんだよ!ピーキー過ぎるだろ……」

 <怠惰の業>の発動条件の面倒さに辟易しながらも、続きをベルに促す。

「ふぅ……ベル次を頼む」

『はい、マスター次の時刻は10時頃から40分程です、ここが発動時間としては最長時間でした、本当に私の無力さを痛感しました……』

「ベルのせいじゃない、俺の認識の甘さが原因だよ……10時頃から40分か、これは間違いなく車の運転だな、車も乗れないのかよ……田舎じゃ死活問題だぞ、この件も含めて何か対策考えないと田舎じゃ生活すら出来んな……よし次だ」

『はい、マスター次の時刻は11時頃から30分程です』

「これも、車の運転だな、次は?」

『はい、マスター次で最後になります』

「ってことはこれも料理で間違いなさそうだが、一応時間を聞かせてくれ」

『はい、マスター最後の時刻は11時35分頃から20分です、私も早急にマスターへの連絡手段を確保しますので、マスターも<怠惰の業>の対策をお願いします』

「ありがとうベル、お前のおかげでダンジョンも無事だし逆に早い段階でこの条件に気付けて良かったよ」

『はい、マスターこちらこそ私に自我を与えて頂き感謝しています』

 衝撃の事実が発覚したが、明確な敵もいない状態での発覚だったので大事にもならず、結果として今後の対策を練るための情報も得る事が出来たと安堵し胸を撫でおろす、ベルに自我が生まれて本当にラッキーだったと、コアに語り掛けた過去の自分とベルに大いに感謝する。


 ☆ ☆ ☆


「眠たくなってきた……」

『昨夜は遅くまで起きていたようですが、あまり夜更かしをすると体に良くありませんよ?』

「まぁ分かってはいるんだが、一度やりだすとなぁ……昨日も寝る間も惜しまずやってたら、気付いたら布団で寝ちゃってたよ」

『なにをなさっていたのですか?』

「ネットゲームで素材集めという名の作業をしてたらついつい時間を忘れてな」

『夜遅くまで作業ですか……お体に無理のない範囲でやるのがよろしいかと具申致します』

「こればっかりは俺の唯一と言っていい趣味だからなんとも……まぁ程々に気を付けるよ、ありがとうベル」

『はい、マスター私もネットゲームお手伝い出来たら良いのですが……やはり私も肉体が欲しいです』

 コアルームに鎮座するベルの前で寝転がりながらベルと他愛もない話をしながら<怠惰の業>対策について考えるが一向に対策を思いつかず、段々と睡魔が襲ってきたので眠気覚ましになんとなくステータスを開いてみる。

(ん?レベル上がってるじゃん!)


児玉 拓美 LV3


 スキル 怠惰 

・怠惰の業(自身が勤勉だと自身の全能力無効化)

・怠惰の居城(自身の居住空間と認められる場所を拠点化し、拠点内での自身と支配下にあるもの以外の全能力無効化、

拠点の認識阻害効果)

・怠惰の謳歌(自身が勤勉ではない場合、経験値、SPを得られる)

・怠惰の豊穣(自身の支配下にあるものの成長値に上昇補正) 

・怠惰の従者(自身の支配下にある者の謀反率低下)

・怠惰の魔眼(自身の支配下にある者の視覚を覗く事が出来る瞳)


 加護 娯楽神の加護

・鑑定(鑑定対象の情報が分かる)

・同類言語理解(同類の言語が理解出来る)

・アイテムボックス(自身に所有権のある物を収納出来る)

・娯楽の謳歌(娯楽を行っている場合、経験値を取得し、能力値、成長値上昇効果)

 G-SHOP


 気づかない内にレベルが上がっていが特に何かをした覚えもない、こういうときにはベルに聞くのが早そうだとベルに問いかける。

「なぁベル、いつのまにかレベルが3になってたんだけどさ、何か知ってる?」

『はい、マスター……レベルは基本的にはモンスターを倒すことによって経験値を得て初めて上がるものですが、マスターは<怠惰>と<娯楽神の加護>を所持しているので、その片方あるいは両方の効果によって経験値を得てレベルが上がったと思われます』

「つまり、俺の場合戦闘せずともレベルを上げられるということか……だが、どっちがどの程度どんな事で経験値が得られるかが不明ってことね」

『いいえ、マスター<怠惰>に関しては明らかです、<怠惰の業>が発動していない場合は<怠惰の謳歌>が発動しているという事になりますから、逆に<娯楽神の加護>がどのような事で経験値が得られるかが不明瞭です、効果の適用範囲があまりに曖昧ですし、娯楽の定義はあくまでも本人の主観でしかありません』

「なるほど?」

『例えば、マスターの趣味が料理だとします、その場合は恐らくマスターにとっては料理そのものが娯楽になるので<娯楽神の加護>の効果が適用されると思われます、ですがどの程度のものが趣味や娯楽判定になるのかが不明瞭ですし、どこまでいっても本人の気の持ちようかと』

「結局効果の適用範囲は良く分からんということか……」

 言いながら疑問が浮かんでくる。

「娯楽判定の場合の行動は<怠惰>の勤勉判定的にどうなるんだ?」

『はい、マスター恐らくですが娯楽判定だったとすれば、それは勤勉では無いと判定されるかと思います、今日のマスターの行動から推測しますと職場の方に業務上必要な連絡は勤勉判定、料理も勤勉判定、車の運転も勤勉判定、これらはマスターにとっては働くという事で勤勉判定なんだと推測出来ます、ですが、料理や運転が趣味の方も世の中には存在しますし、中には仕事が趣味の方も居ます、ですがマスターにとっては違いますよね?』

「そうだね、仕事は仕事だし、料理も運転も趣味だとは言えないな」

『はい、マスター……ところでマスターは昨夜はネットゲームで作業をしていたんですよね?』

「そうだね昨日はネトゲで作業を……してた」

『はい、マスター……作業という言葉使うという事はその行動は労働に近いものではないですか?ですが、昨夜は<怠惰の業>は発動していません』

「つまり、娯楽判定であれば怠惰判定になる?」

『はい、マスター私の推測が正しければ<娯楽=怠惰>になると思われます』


 光明が見えた気がした、ベルの立てた推測が正しければ<怠惰の業>対策が出来るかもしれないと、無い頭を振り絞る。

「なんかうまいこと出来そうなきがするんだけどなぁ……」

『G-SHOPでも覗いてみてはいかがですか?マスターにぴったりな物があるかもしれませんよ?』

 ベルに促されステータス画面からG-SHOPを開いて見てみることにした。


「昨日は何も表示されて無かったけど、今日は取得できるスキルが表示されてるな……っていうか、残SPが増えてるんだがこれは<怠惰>のおかげなのか?」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る