ヒモ貴族
あやえる
第1話
俺の仕事は営業マン。
毎日、営業電話と飛び込み営業に回ってる。断られたり怒鳴られるのが当たり前で、もともと人として何か大切な感情が欠けていた気はしていたけれども、この仕事を始めてから、より何かが欠如した気がする。
『なんなんだよ!こっちは仕事なんだよ!ふざけんなっ!』
はいはい。俺も仕事で営業してるんですよ。
『前も同じ電話来たわよ!』
知ってます。リスト回して営業してんだから。むしろ、おたくには今日で俺からの三回目の電話だよ。
「そうなんですね。最近多いみたいですよねー。」
何も知らないふりして、断られるのも解ってて、会話する。
『不愉快だし迷惑だからもう電話して来ないでよ!』
はいはい。いつものパターンね。同期や先輩達は、表情を曇られながらも、声は笑って話してる。俺は、いつもなんか笑えてくる。
電話を投げるかのようにガチャ切りされた後、「やっべぇじゃん」と、独り言を呟いて俺は静かに笑っていた。我ながらサイコパスなのではないか、と思う。
ーーーーーー
「お仕事お疲れ様ー。」
「貴久くん?!やだぁ!びっくりした!」
風俗店の裏口。俺は煙草を吸って、この女を待っていた。
「驚いた?」
「え?出待ち?」
「まあまあまあ。」
女は、嬉しさを隠しきれない表情をする。
「今日、俺ん家来るよね?」
「行っていいの?」
「だから迎えに来たんじゃん。鞄重くない?持つよ。」
「貴久くん、優しい!」
「普通でしょ?」
女は嬉しそうに俺の腕にくっついてきた。
そのまま、俺の家の側のファミレスで適当に飯を食って……もちろん女の奢りで。
そういやゴム切らしてたし、煙草も切れそうだったな、と思い、近所のコンビニへ寄った。
会計の時に、持ってやっていた女の鞄から女の財布を出して、俺は当たり前の様に会計した。
「ん?貴久くん?それ、私のお財布……。」
「ん?ああ、この鞄と、このお財布は、魔法の鞄とお財布でね。どんどんお金が出てくるんだよ。」
女は、一瞬曇った表情をしたが、俺が目を合わせて微笑むと、
「そ、そうだよね!魔法かぁ……あはは!もう!貴久くんおちゃめ!かわいすぎ!」
この人、馬鹿なのかな?我ながらゲスでクズだと思う。
家に付いた。女が洗面所で歯を磨いている。この女用の歯ブラシは、何人もの女が『自分用』だと思って使っている。
俺には良い女がたくさん寄ってくる。セフレでも彼女でもない。客でもない。何も始まってもいない。『都合の』良い女だ。
ベッドでボーッとしていると、女が勝手にズボン越しに触ってきた。
「仕事後なのに疲れてないの?」
「ご飯食べたし、貴久くんに会えたから元気回復しちゃった!」
風俗嬢で仕事後なのに、この女の性欲は底なしか?
「気持ちいい?」
「ん……。」
まあ、そりゃね。
ーーーーーー
毎年、四月には新卒の新入社員。九月には中途採用の新入社員が入社する。その度に、同期の奴らと誰が一番女を持ち帰られるか賭けをしている。はっきり言って、俺は顔もイケメンではないし、いわば雰囲気と人当たりの良さが売りなのかもしれない。この会社に入社してから、そこそこの営業成績で、とりあえず、毎回この持帰り賭けは、俺の優勝。つか、余裕で全員持ち帰ってるし、しかも他の奴と違ってバレたりトラブルにも発展させない。煙がない所に火は立たない。なら火を立たせない様にすればいいだけ。
ーーーーーー
週末は、アイドルヲタクの同期の付き添いで、たまにアイドルのライブやらイベントに行く。ぶっちゃけ、アイドルなんてよくわからないが、素人っぽい女や、普通の女と遊びたいなぁ、と思ったらこれが最高だ。女性アイドルのイベントに来る女へは適当に「誰好きなの?え?俺も!あの子可愛いよね!」と、口合わせておけば簡単に相手は心を開いて、あわよくばその日にホテル行けるし、連絡先交換しなくても、またイベントで合うからリスクなく何回も会えるしヤれる。
下手な風俗やら、相席屋やら、キャバクラ行くよりも、金もリスクもない。
いつか、しっぺ返しやら天罰が落ちるのかもしれない。
それならそれで、その時考えればいい。
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