第5話 呪いの子
長い無音の時間が流れた。真空状態の中にいるような息苦しい時間が流れた。ルミナは知恵を絞りようにも酸欠状態で、全ての思考が停滞していたのだ。
すると突如、地下の床を突き破り巨大な茨の
ツタは肥大化し、大蛇を彷彿させるかのようにニョロニョロ湾曲し、シエルを包み込んだ。
「サラ…」
ルミナは今にも枯れそうな声を振り絞り上げた。
「ー!?」
「かはっ。」
シエルを包んだ籠の包む時間が徐々に強くなっていった。
そして、次の瞬間、シエルのナイフを握ったてが、籠を貫いたのだった。
「…チッ。」
シエルは軽く茨を切り刻み、自身の腹部に貫いていたツタを引き抜くと、屋外へと飛び立った。
「おい、ルミナ、お前、また一人で…」
暗がりの奥の方から黒髪の青年が姿を著した。容貌は、マコトと瓜二つだった。
その後ろから、マコトとサラという名の少女が姿を現した。
「おい、オズ、お前余計な事を?」
「…ああ。また、マズそうだったからな。お前、何回死にそうになれば気が済むんだ?」
「いや、助かったがー…」
ルミナは咳き込みながら、
「オズ、ちょっとこの青年をリビングまで案内してくれないか?」
「断る。」
オズは、マコトを軽く睨みつけていた。肩には、ライフルを担いでおり相当マコトを警戒しているかのようだ。
ルミナは、オズの肩を引っ張った。
「コイツは、しばらく安全だ。お前が、それを一番分かってる筈だ。今、警戒でもしたら、後々お前の身に何か、あるかもしれないからな。」
「だったら、お前が行けよ。俺は、お前のパシリじゃねぇ。」
オズは、眉をハの字にすると暗がりの奥へと消えて行った。
「サラ、ゴメンな。あとは、私が何とかするから向こうで休んでてくれ。」
ルミナは着替えると、マコトをリビングへ案内した。
「なあ、俺の父親を殺した人も、ダークネスなのか?」
「ああ。そうだ。そして、殺しの指示をした犯人は奴だ。奴はあんたを狙っている。何せ、あんたは今はただの記憶喪失人間だから、今、殺せる絶好のチャンスだからな。」
ルミナはやかんを沸かしてティーカップにお湯を注いで、運んできた。
「なんだって・・・!?」
マコトは身を乗り出し、コーヒーカップをひっくり返しそうになった。
「最近見た、化け物たちがいただろ。とんがり帽子の黒服の女に、木の姿をした三人娘-。こいつら、みんな、あの少女の家来なんだ。」
ルミナは軽く溜息つくと、淡々と話を続ける。
「でも、繁華街のあのとんがり帽子の女は俺をスルーしていったぞ。」
「コイツらの弱点は、魔王石だ。あんたの体内にそれがある。」
「ーお前ー、一体、何者なんだー?」
ルミナは自身のこと、前世のマコトやマコトのことについて話し始めた。
彼女は元は人間の少女であり、養女として継母に育てられた。継母は風変わりな人であった。事あるごとにブツブツ呪文を唱えていたからだ。それは、黒く不気味で巨大な影が出現し、ルミナを襲った時であった。ルミナは訳がわからぬまま、床にへばりついて兎のようにビクビクしていたが、急に継母が現れ呪文を唱えたたのだ。すると、その影は煙のようにスッと消え失せた。継母は茨の様にとげとげしい性格であったが、決して手をあげるような性格ではなかった、しかし、継母はいつの間にかダークネスに喰い殺されており、ルミナは彼に奴隷のように育てられていた。そして、偶然通りかかった前世のマコトに助け出されたのだった。そこから数奇な出逢いにより、彼女はアルファとなったのだった。そこで長い年月が経ち、彼女はマコトの父親に出逢い、彼に戦い方を教えたのである。ルミナは自分のせいでマコトの父親が死んだのだと、悔いているようであった。
彼女はどんより曇った表情で、空の向こう側をただじっとながめていた。マコトはそこに陰鬱な気配を感じ取り、激しい頭痛を覚えた。
それは、とある夕暮れ時のことであった。森の奥深くの時計塔に一人の少女が佇んでいた。ぶかぶかの黒いとんがり帽子にダボダボのローブを纏っていた。少女の脇には雀がチュンチュン歩いていた。
その脇には人の形を象った木々が生えていた。その木々は不気味なまでに人の姿に酷似していたのだ。フサフサした髪の質感、複雑な手の造形が本物のようであった。
そこへ、一人の女子高生がぜぇぜぇ息をきらしながらやってきた。
「あら、来たの?」
「無理よ!あんな学校!みんなみんな、消えてしまえばいいんだ!ねえ、あたしに力を頂戴・・・」
「もう、後戻りはできなくなるわよ。」
「もう、決めたの!」
そこには、寒々とした夜の静けさが漂っていた。
「う・・・ん、もうちょっといける子だと思ったのに、期待外れねー。やっぱり、只の人間だと脆いのかしら?」
少女はほくそ笑むと、木を見つめて優しく撫でる。
そこには、女子高生の姿に酷似した木が生えているのだった。
「愚かよね。人間はー。自分の弱さを知らないで、自分や仲間のために後先考えずに突っ走るー。さて、次はどんなおもちゃで遊ぼうかしら・・・」
少女はにんまり微笑むと、丘の下の夜景を眺望していた。
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