その28 末期

数年間も覚えている事件が

昔はあった


この頃は

一年と覚えていられない


昔なら

数年の記憶を刻みつけたろう事件も

月に何度も起きては

覚える暇もない


子の親殺し

親の子殺し

孫の祖父母殺し

祖父母の孫殺し


事件の背後から

この社会の軋みが聞こえる

生き難さに呻吟する声が

いくつも重なり合って

洞穴の中のように

おぞましく谺してくる


崩れていく

これまでは崩れなかったものが

この崩落は

きっと棟木を折るだろう


何かが終わろうとしている

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