その12 生まれたままの
(ある作業をするときの、手指の動かし方のコツを人から教えられ、
知らなければ、そんな手指の使い方は一生しなかったかも知れぬと思った。)
人には
生涯一度も
使うことなく終わる
部分があるのではないか
塵労にまみれて
倒れた人にも
その心と体のどこかに
一度も使われなかった
無垢なものがあって
汚れきり
疲れきり
今は横たわって
息絶えようとする人のなかで
その生まれたままのものが
その人が生まれた瞬間の
語りかける
かなしさ
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