20.捜索の魔王

間一髪の所でアレーナを守り、モンスターの群れをすれ違いざまに斬り捨てながら俺はセバルドの街へ戻って走っている。行きはエイブラハムさんのペースに合わせていたが、帰りは1人なのでかなり飛ばす。


エイブラハムさんと街を飛び出してきたのはいいものの、青ランク昇格試験の集合場所だという野営地はもぬけの殻だった。人間とモンスターの死体が1つずつ転がっているくらいだ。モンスターの方の死体にアレーナの魔力の痕跡が残っていて、痕跡は北東の方に続いていた。

エイブラハムさんと別れ、俺は魔力の痕跡の方を捜索することにした。そこでサイクロプスに殺される寸前のアレーナを発見したというのが今回の経緯である。


モンスターが異常に発生し、セバルドの街を襲撃しているというのは魔法によるものだ。

召喚魔法と洗脳魔法を組み合わせただけの程度の低い魔法。だがそこそこに大掛かりな仕組みだったもので、クエレブレを介して魔法を妨害することは諦めた。

それよりも術者を倒し、魔法そのものの効力を失わせる方が手っ取り早い。


術の発生源はセバルド。つまり、術を行使しているのはモンスターではない。人間あるいは人間に紛れ込んだ何か……例えば魔族とかその類いだ。



などと考えを巡らせていると、セバルドの防護壁が見えてきた。門の所をモンスターが突破しているようだ。これでは街の中は惨状だろう。


俺は門に直進して、群がっていたモンスターを引き裂いて街に入る。

建物は軒並み破壊されていたが、人間の死体はどうも少ないように見える。逃げ遅れの老人の死体がちらほらあるくらいだ。


「シェミハザ」

下の方から声がする。誰かと思えばイルマだった。


「街の人達はどうなった」

「大丈夫。だいたい、避難した」

子どものように胸を張って答える。

冒険者と衛兵は避難作業に追われているのだとか。シェミハザもやるかと言われたが、術者を殺さなきゃならないんでやめておく。


「気をつけて、ね」

「そっちこそ」

避難は任せた。

イルマとは反対方向に進んだ俺は、再び残滓を辿った。


魔法を使っているのだから、その元を辿るだけで術者の元に到達する。

こうしている間にもどんどん近付いている。


特に損壊が激しい住宅街。貴族街とまではいかないが、それなりに広い屋敷が多かった地区とみえる。

壊れた住宅の中で1人の少年が蹲っている。俺はぴたりと足を止めた。


少年は俺が近寄ると、煤けた顔を上げてこちらを見、俺が冒険者だと分かったのか疲れ切った顔を輝かせる。


「お兄さん、冒険者の人だよね! 家族とはぐれちゃって……避難所まで行きたいんだ」

涙目で訴えてくる。

俺は努めて同情的に見えるように眉を寄せ、少年と目線を近付けるために地面に膝をついた。少年は助かったとばかりに顔を綻ばせる。


まあ敢えて言うまでもないが、この少年が術者である。人間ではなく、角を隠す術を使っている上級魔族でもあるらしい。俺の魔力感知で全て暴かれているものの、この能力がなければ多分全く見分けがついていなかったろう。

面倒な動きをされる前にさっさと首を落としてもいいんだが、何か聞き出すのもありかと思って様子を見ることにした。


それに、うまく騙せていると思って精一杯演技をしているのが滑稽だからな。とはいえ、演技にこれ以上付き合っていられるほど俺も暇ではない。


「これは驚いた」

数秒じっと目を合わせ、哀れむような先程の表情のまま告げた。


「お前、魔族か」

少年の笑顔が凍りつき、焦りに変わり、笑い出す。なぜ笑っているんだか。自らの有利を確信しているとしたなら、むしろこっちが笑い出したいんだが。


「なぁ〜んだ、バレちゃったかぁ」

少年が芝居がかった仕草(今までも芝居だったが)で大きく肩をすくめ、パチンと指を鳴らすと、角を消していた魔法が消えて手のひらほどの大きさの双角が露わになった。

……生活に困るレベルで長い俺の角と同じにしないで欲しい。


少年は立ち上がって恭しく礼をする。俺もついでに立ち上がる。


「魔王アザゼル様麾下が1人、レメクと申します! 君が死ぬまでの短い間になりますが、何卒よろしくお願いします〜」

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