16.異常事態と魔王
長い合宿の日程を終え、いよいよ冒険者ギルドに帰還する日がやって来た。
エイブラハムさんは小屋の前に俺たち4人を集める。
「トラブルはあったが、シェミハザ、クラウス、ヘルマ、イルマ。ここにいる全員合格だ! この後は冒険者ギルドに戻って昇格の手続きをして解散となる」
俺の除く3人はくたくたになった様子で頷く。最初に言った通り、実力を見るというよりは鍛えるという意味合いの方が強かったんだろう。
荷物を持って小屋を後にし、やって来たであろう道を戻る。行きと帰りって全然道が違うように見えるんだが、俺だけか?
歩いていると見覚えのある木や、俺に粉砕された巨岩の破片などを見つけた。考えてみれば、以前俺がドクヘドラーを倒した場所とそう遠くない距離だ。日が傾き始めるずっと前にセバルドに到着できるだろう。
「お疲れ様でした!」
冒険者ギルドで赤ランクの証を貰った俺たち4人は現地解散ということになった。これからどうするのかと訊くと、クラウスは貴族街にある実家に、ハルフォーフ姉妹は宿屋に帰って寝るらしい。そりゃそうか。疲れていると言っていたし。
俺は全く疲れていないから依頼でもこなそうかと冒険者ギルドに留まったが、アレーナがいないと道に迷って仕事にならないんだった。
合宿ではなかっただろうが、そんなに長期だったのか? 受付の人曰く、まだアレーナは帰って来ていないらしい。
なんとアレーナだけでなく、同じ日に青ランク昇格試験を受験した全員と、紫ランクの試験官も誰1人戻ってきていないとか。不安だ。
「青ランクの昇格試験はもう終わっていても良いはずなんですけど、誰も戻ってきていないんです。そろそろ捜索隊を組もうかと話し合われているところでして」
青ランクの昇格試験は、確か指定されたモンスターを倒してくるとかいうやつだったか。それにやられているのではないのか。
「だとしても、全員が死亡するということはおかしいんです。確かに合格率は低い試験ですが、再受験が可能なので無理だと判断すれば放棄する人がほとんどですから」
つまり何らかの異常事態が起こっている、と。原因が何にせよ、仲間の消息が掴めなくなったとあれば俺に行かない選択肢はない。
「青ランク昇格試験の場所、教えてください」
真剣に受付に申し出るが、受付の人にはにべもなく断られてしまった。
勝手に行くんだから、俺が帰ってこようがこなかろうが関係ないだろうと目を細めると、受付はヒッと声を上げて後退りをしながら、それでも意思は揺らがないようだった。
焦りと生来の短気さからか、段々と苛ついてくる。殺気で冒険者ギルドから人が退去する中、不必要なほど気丈なこの受付と俺は冒険者ギルドに残されていた。
「紫ランクの試験官含め、誰も帰ってきていないのにですか!? 無謀です!」
「なら! 手当たり次第探すまで──「どうしたシェミハザ、困りごとか?」
俺の声を遮る、聞き覚えのある声。エイブラハムさんか。素早く振り向くと、エイブラハムさんは多少驚きながらも、話を聞いてくれそうな雰囲気を見せた。
「仲間が青ランク昇格試験で行方不明になったらしいんで、探しに行きます」
「なら、俺も行くぞ。……なにしろ、ついこの間に『お前の力になる』と言ったばかりじゃないか」
紫ランクのエイブラハムさんならまず捜索を拒否されることはないか。なら好都合だ。
エイブラハムさんは魔族に対する敵対心こそあるが、人が増える分には問題ない。紫ランクなら足手まといにはならないだろう。
「受付のねえちゃん。俺が行く、と言ったらどうする?」
「それは、もちろん場所をお伝えします。しかし……」
「シェミハザのことか? 気にすんな。こいつはたまげるほど強い」
それでは、と遂に折れた受付は地図と討伐対象を俺達に見せた。クエレブレに代わりに見て貰った。俺は地図が読めない。
「善は急げだ。すぐ行くぞ! っておい、荷物は置いてけ!」
エイブラハムさんの名義で受付に荷物を預けると、俺達はすぐさま現地に向かうことにした。
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