第35話:リベラルアーツって、何?

 ですからリベラルアーツ教育と言う時、昔の「教養教育」とは違うという意味合いが含まれている。最近まで多くの大学は「役に立つ人材」を育てようするので早く専門教育を行い、その専門家を育てようとした。しかし、そうなると自分の専門の事は詳しいが、それ以外の事は知らないという人たちが生みだされる。


 特に、最近の大学入試は受験科目が少ない。そうすると受験生は入試科目を集中して勉強する。そうすると例えば理工系では「数学と物理と化学には詳しいけれど、それ以外の分野はほとんど知らない」といった学生が、文系でも「法律や経済は知っているけど、科学技術も文学も知らない」といった学生が増える。


 でもそうやって一つの分野の事しか知らない人が社会に出ていった場合、その人は社会のいろいろな問題に対処することができるでるのかと言う疑問が湧く。現代社会の問題はさまざまな要因が絡まり合ってる。例えば原発の問題を対処するにも理科系と文系の両方の知識が必要。


 高齢化の問題に向き合うにも、心理、経済、社会福祉などのさまざまな分野の知識が必要になるでしょう。専門教育だけを受けてきた人が「役に立つ」とは限らないのです。むしろ幅広い「教養」を持っている人が必要とされているのが現代、それにマッチした分野だそうです。


 つまり、答えがない問題にどう対処するかというのが、「リベラルアーツ」と言う学問の発生する理由。また誰もが「正解を求めてしまう」のも大きな問題。また、物事には正解があり、それを答えられれば優秀だと思い込んでいる人が多い。しかしこの社会で起こっている事は、一つの正解を見いだす事が難しい問題ばかり。


 グローバル社会の中での国際紛争は、民族も宗教も違う人たちが「自分の考えは正しい」と言って争う。その中で「正解はこれだ」という発想は役に立たない。日本の中でさえ、生まれや立場の違う人たちは、全く違った意見を持っている。一つの家庭の中でも、お父さんとお母さん、兄弟姉妹で考え方は違います。


 その中で「正解を見つける」ことよりも、ものの考え方・感じ方が違う人たちの中で、いかにほかの人たちの立場を理解し、他人の主張を聞き、自分の主張も述べ、調停し、共存していけるのかが問われている。そこでは「ひとつの正解」よりも「多様性の理解」がとても大切になる。


 ビジネスパーソンも海外の文学を読めば、その国の国民性がわかる。弁護士も人々の心理や人間関係のあり方を知っていたほうがいいはず。そうやって「物事にはいろいろな見方があるのだ」ということを学んでいる事が、私たちの人生を切りひらくときにとても大切になる。


 多様な見方ができるとは、「他の人の言っていることを鵜呑みにしない」ということでもある。どんな偉い人が言ったことでも、必ずしも正しくないかもしれない。ある時代のある場所では正しくても、他の所では通用しないかもしれない。


 だから、それをすぐに信じてしまうのは危険。そうではなく、自分の頭で考え、自分のハートで感じ、自主的に判断し行動することが求められる。もちろん、そうやって自分で判断するためには、たくさんのことを知っておかなければなりない。


 「リベラルアーツ」という言葉は元々ギリシャ・ローマ時代の「自由7科」『文法、修辞、弁証、算術、幾何、天文、音楽』に起源を持っています。その時代に自由人として生きるための学問がリベラルアーツの起源。「リベラル・アーツ」、つまり人間を自由にする技ということです。


 現代社会は一見自由に見えます。しかし多くの人たちが生きづらさ、不自由さを感じている。その理由を探ってみると、今、私たちが直面しているのは、評価を大変、気にして、「正解」を求めていないと不安だという意識が強い。ですから多くの人たちが「評価されること」にがんじがらめになっている。


 しかしそれは本当に自由な生き方ではない。「評価される正解」にがんじがらめになっている人は実はとても不自由で、そして結局の所、新しいものを創り出す創造性を欠く人になる。それでは自分も楽しくないし、社会に貢献することもできません。


 リベラルアーツとは自分を多様な世界へと解き放ち、より良い自分、より良い世界へと導く入口となる。大学に入学したらぜひ「リベラルアーツ」を広く学び、生き生きとした自分を発見すべき。話が長くなって申し訳ありませんが、この様に、私は、「リベラル・アーツ」と言う学問を理解していますと艶子さんが説明した。

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