とある妹の独白

[※注意※ダークです。ダークです!!]









 

 

 暗い。


 何も見えない。


 何も聞こえない。


 体が痛い。


 喉が渇いた。


 空腹だ。


 顔が痒い。

 ──掻く腕はもう無い。


 足がヒリヒリする。

 ──いや、もう足は無いんだった。無いはずの足の感覚があるなんて、なんと奇妙な事か。


 手足は切り落とされた。

 目は潰された。

 耳は焼かれた。

 舌は引き抜かれた。


 普通なら死ぬだろう。当然死ぬだろう。


 けれど私は生きている。


 それらが実に丁寧に行われたから。


 絶命せぬよう、細心の注意を張られたから。

 都度止血や最低限の手当てが成された。

 淡々と、ただの作業として。ただ淡々と行われた。


 端から見れば、私は芋虫のようだろう。

 手足がない今、這いずって移動するしかなく。

 床に寝そべる私の様は、きっと芋虫だ。


 なぜこうなったのか。未だに私には理解できない。


 ただ私は幸せになりたかっただけなのに。


 どいつもこいつも、その為の踏み台でしか無かったというのに。


 特にあいつ。

 あの、女。私の異母姉。


 あいつは私が幸せになるための捨て駒でしかなかった。

 そのはずだった。


 駒なんだから、雑に扱っても誰にも咎められない。

 事実そうだった。


 イライラした時に暴力を振るった。

 疲れた時に暴言を吐いた。

 もう不要になったから殺そうと思った。


 それの何が悪いというのか!!


 私の為に役立てた事を、あの女は感謝すべきなんだ!!


 なのに……なんなのだ、この現状は。

 なぜ私がこんな目に遭わなければならないというのか。


 本当なら今頃、未来の王妃として生きているはずだった。


 贅沢な暮らし、私にかしずく下僕たち。

 皆が私を大切にしてくれる。

 私はそんな奴らを、ただただ見下し命令を下す。


 そうなってるはずだったのに。


 私は悪くない。何一つ悪くない。


 私がこの世に生まれてきたことに、皆は感謝すべきなんだ。

 私という尊い存在を大切にするべきなんだ。


 だからこれはきっと夢だ。

 毎日毎日気が狂いそうな痛い思い、苦しい思いをしているこれは、きっと夢なのだ。


 なんだ、そうだったんだ。


 ならばいつか夢は醒める。


 目を覚ましたら、まずはあの邪魔な義姉を殺そう。残酷に、苦しませて殺そう。

 それを考えることは何と楽しいことか。


 私は素晴らしい存在なのだから。

 何をしても許されるのだから。


 気に食わない奴は全て殺そう。家族だろうと貴族だろうと王であろうと。


 きっともうすぐだ。

 もうすぐこの悪夢は終わる。


 だからまた始まった体の痛みは、きっと気のせいなのだ。


 痛い

 苦しい

 やめて

 もうやめて


 いいえこれは夢


 勘違いの苦しみ


 もうすぐ終わる

 きっと終わる


 だから


 だからどうか早く









 私を殺して──






 

 


~とある妹の独白 fin.~














===作者の呟き===

かの偉大なる名文学作品が頭から離れない……

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