第17話 しつこい

次の日も、その次の日も、星野はずーっと帰りに俺を待ち伏せ、毎日のように「付き合って」と言われ、かなりうんざりしていた。


『付き合って』と言われるたびに断り、どんどん星野の事が嫌いになっていたんだけど、星野はそんなことお構いなしに、『付き合って』と繰り返している。


「嫌いだから無理」


はっきりとそう言ったんだけど、「どこが嫌いなの? どこがダメなの?」と繰り返される始末。


「全部。 存在自体が嫌い」とまで言ったのに、「そんなの理由にならない」と言われ、視界に入れないようにしていた。



月日が過ぎ、畠山達3年が引退し、薫が部長になっていたんだけど、薫はもともと気が小さいというか、優しすぎるというか…


部員に対して強く言えず。


星野が部活中でも「付き合え」と言いはじめ、薫が注意をしていた。


けど、星野はものすごい勢いで「あんたには関係ないでしょ!? 部長だからって偉そうにするな!」とマシンガンのように反論してしまい、薫は何も言えないままでいた。



そんなある日の事。


薫の右足首に、紫色の糸が付いているのが見え、薫に切り出した。


「薫、右足に糸がついてる」


「ああ。 これミサンガだよ」


薫はそう言いながら靴下をずらし、黒と紫のミサンガを見せてくる。


「お姉ちゃんに聞いたんだけど、紫は忍耐力が上がって、黒は魔除けになるんだって。 自分で作ったんだけど変かな?」


「いや、良いんじゃね?」


そう言いながらふと見ると、星野が歩み寄ってきた。



『忍耐力と魔除け… 俺も作ってもらおうかな…』



完全にうんざりしながら星野から逃げるように、ラケットをつかみ、1年と卓球を始めていた。



数週間後。


学校へ行くと、薫が黒と赤のミサンガを差し出してきた。


「僕が作ったやつで良かったらもらって」


「サンキュ。 ちなみに赤ってどんな意味があんの?」


「元気をもらいたいときにつけると良いみたいだよ。 最近、星野さんのせいで元気ないみたいだったしさ」


何も言えないままに左足に着けようとすると、薫が慌てて引き留めてきた。


「左足は彼女がいるってことだよ! って、いるの?」


何も答えないまま右足首にミサンガをつけ、靴下で隠していた。



数か月後。


久しぶりに畠山君が部活を見学しに来て「高校受かった!!」と声を上げた。


その声に、部員たちが集まり、みんなで「どこ?」と聞き始め、畠山はどや顔をしながら答えていた。


「市立の高校なんだけど、ボクシング部があるんだ。 しかも、何年か前に『中田英雄の息子』がボクシング部に居て、賞を総なめしてたらしい。 今はボクシングの強豪大学にいるらしいんだけど、マジでやばくね?」



畠山君の言葉を聞き、頭の中に英雄さんと千尋のファイティングポーズが頭に浮かんだ。


一部の生徒たちは『誰?』という表情をしていたんだけど、久しぶりに聞いた名前に胸の高鳴りを抑えきれず。


『絶対にそこの高校に行って、広瀬ジムに入る!!』



改めて自分の目標を定め、普段以上にボクシングを意識した動きを繰り返し、しつこすぎるくらいしつこく言い寄ってくる星野に、うんざりしていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る