フットサル――VSチーム夢向川戦 3


 第2ペナルティマーク、キッカー鮫倉のフリーキックからキックイン。

 4秒ルールの制限もあり迷っている時間は無い鮫倉は直接のゴールを選択する。フットサルゴールはサッカーゴールの2.44m✕7.32mよりも狭い2m✕3mとなるため普段のサッカー練習でおこなうゴール隅へのシュート打ち分けと感覚が変わるため難しい、ここはど真ん中へとシュートを狙った。夢向川Gleiro徳重は冷静にこのシュートを両腕で押し弾きゴールを死守する。弾かれたボールは竜田へと渡り、竜田は胸トラップからのボールコントロール。ドリブルで左ハーフウェイラインまで前進しながら寺島を引きつけると右ハーフウェイライン付近で手をあげる神田へと大きくクリアし、パスを送る。神田はパスをうまく処理し、前方の夏河をボディフェイントを駆使して抜きさるとペナルティエリアに進行。

(やばッ)

 だが、そこから素早く雨宮がマークに入る。絶妙な距離感のマーク。真ん中から走る舘へとパスを送ろうにも雨宮にブロックされる確率は高い。

「神田さんッ」

 後ろからの落ち着いた声が耳に届くと、神田は勝負を避けて後方へとパスを送る。

「オーケッ」

 後方より走ってきた渡利が冷静にボールを受け取ると

「ハイッ」

 掛け声と共にフリーになっている竜田へとパスを送ると竜田がダイレクトにボレーシュートを撃ちこんだ。


 ボッ、と鈍い音を立てたダイレクトボレーは多来沢の膝へと当たり、不規則な軌道で撃ち返されると再び渡利がボールを処理し、今度はゴール前の舘へと低めのクリアを渡す。舘はそのままヘディングでゴールを狙うも再び長い脚を伸ばした多来沢にゴールを阻まれる。

 上空にあがったボールを多来沢は両手で処理するとボールの主導権を握る。ペナルティエリア内からのゴールクリアランス(サッカーで呼ぶ所のキーパーによるスローイングパス)で寺島へとボールを送った。


(凄い、完璧にやられたな)

 渡利の描いたパスのタイミングは確かにハマっていたはずだが、長い脚を武器にした多来沢のゴールセーブに2度も阻まれた。これはやすやすとゴールをいただけそうにはないと感じながら渡利は既に走り始めている鮫倉のマークへと戻ってゆく。


 ゴールを死守した多来沢が少し息を整えながら試合の流れを見守っていると


「やったんだよウチのハァちゃんッ!」


 外野から元気にはしゃぐ祖母マリアンヌの声が聞こえて、思わず苦笑いが漏れた。


 右ハーフウェイラインでボールを受け取った寺島は真ん中に走り込み全力スピードで渡利のマークを外した鮫倉の貪欲にパスを求める鋭い眼の動きに釣られるようにパスを送った。敵陣の穴が開いたゴールライン、Gleiroキーパーとの一対一に打ち勝ちゴールを決めるチャンスである。


 だが、


「っッ」


 寺島と鮫倉の間のパスラインに割り込むひとつの影。鮫倉の全力疾走でマークを外されたはずの渡利である。凄まじい復帰力で鮫倉に追いつきパスを阻止し、ボールを自身の支配下に置いた。

 マークを外されたのは演技だったのか、涼しい顔で反転する渡利を見て鮫倉はすぐさまボールを奪い返そうと向かってゆく。

 渡利はインサイドでボールを前に蹴り出すと、向かってきた鮫倉の横を通り過ぎてゆくと同時に足を踏みこんで自身もフェイントを掛けながら逆方向から鮫倉の横を通り過ぎるとボールと再び合流し、鮫倉をいとも簡単にワンタッチで追い抜いて見せた。

(今度は正々堂々とやらせてもらったよ)

 前方へのダブルタッチ。初歩的ではあるが精度の高いドリブルテクを駆使して鮫倉を置き去りにドリブルを開始する。今度は渡利のシュートチャンスだが、前方には雨宮が距離を取り待ち構えている。

(ここは舘さんにパスをした方が最善だけど)

 今一度確実なシュートチャンスを狙うなら壁をもう一枚剥がした方が賢明だ。渡利は短い思考の中で雨宮との勝負を選択する。

 渡利はボールの外側へと大きく踏み込みながらインサイドでボールを動かし、雨宮の重心を傾けに掛かった。雨宮のディフェンスが崩れた所をアウトサイドから逆にボールを動かし一気に抜くフェイントテクのひとつマシューズフェイントを仕掛ける。

「ぉッ」

 だが、そんな一般的なフェイントテク。ましてや一瞬の欲をかいた行動なぞ冷静に判断をくだす雨宮には通用しない。最初の大きな踏み込みからのインサイドでボールを蹴った瞬間には雨宮は真っ直ぐとボールに向かい、右足で強く蹴りつけボールを横に浮かせると不意打ち気味に飛んできたボールを舘がつま先で弾き、多来沢の足元へとボールが渡り、多来沢はすぐさま寺島へと再びボールを蹴り渡した。攻撃チャンスは再び同示ヶ丘へと移っていった。

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