VS二年生―――撃ち込む全力シュート―――

 一年生陣の作戦・超攻撃に立壁が気づき始めたが、一年生達の取るべき行動は変わらない。とにかくシュートを撃ち続けるそれだけだ。

 こぼれ球は夏河の元に転がった。

(入るまで撃ち続けるっ。右隅、にっ!)

 がむしゃらシュートッ。またも立壁がパンチングで防ぐ。

苺千嬢いちじょうちゃんッ。撃つたびにシュートがうまくなってる気がするッ)

 何度もシュートを撃たれて立壁は気づく、夏河はただがむしゃらにデタラメなシュートを撃ってるわけじゃない。右に左に隅に向かって撃ちこんできている。しかも、キーパーに慣れていない立壁の苦手な斜め上方向だ。考えなしのシュートではない。武田にシュートを見てもらいたがっていたが、ただこなすだけのここまで精度を高めて撃てるものか。確実に努力の精神こころがシュートに現れているのがわかる。そして

(センスもいいっ)

 元々、なにかしらスポーツをやっていたと聞いている。運動向けの身体には仕上がっているのだ。もしもこれに、精密射撃スナイパー向きのシュートセンスが備わっているのだとすれば

(レナっちゃんが鍛えるのも有りかも知んない)

 だが、いまは練習とはいえ敵チーム。二年生チームにとっては脅威の芽のひとつ。それに、撃ってくる脅威は夏河だけじゃない。

「来るよッ!」

 立壁が叫ぶと同時にもう一度、寺島のシュートがど真ん中に飛んでくる。立壁は堪らず膝でセービング。軌道がそれたボールはライン外へ、一年生チームのコーナーキックチャンスだ。


 コーナーキッカーは葉山が務める。


 葉山はコーナーエリアにボールを置くと緊張で下唇を舐める。

(ここは絶対、得点に)

 選外一隅の得点チャンス。パスを送る相手は慎重に選び、確実なゴールアシストを狙う。緊張の面持ちで選ぶ相手は

「お願いしますッ!」

 コーナーキックからセンタリングを上げた相手は

(よっしっ!)

 ツインテールが揺れ動く。選ばれたのは寺島だ。タイミングを合わせてヘディングシュートーー

「ーーィッ!!」

 だが、寺島のヘディングと同時にボールを額にぶつけ、武田が阻止。寺島に競り勝ちボールはペナルティエリア外に。

「好きにさせるなっ、速攻で黙らせてッ!!」

 山田が足元に転がったボールを受け止めると武田の号令と同時に鈴木へとパスを送る。鈴木も走りながら山田にワン・ツーで返した。山田、一年生陣地へと走り始め、美井へとロングパスを浮かせた。美井、パスを胸トラップで足元に送る。

 だが、目の前には鮫倉が待ち構えている。

(このっ、何度もやらせないってッ)

 美井、今度はラフプレイに備えてボールコントロール。すぐに空きを狙ってフェイントを仕掛けるが、鮫倉のプレースメントと睨みの圧力はキツい、まるで自分の領域テリトリーに侵入してきたボールに執着する猛獣のような迫力だ。

(こいつっ、ホントにフォワード志望なん? ゴリゴリのディフェンダーじゃんかよッ)

 鮫倉の裏を読もうとしても、足を使って無理やり目の前に走り込んでくる。これがフォワードの動きかと、美井が驚愕している間に周りが追いついてくる。意地になり過ぎたと美井は舌を打つが、後悔をしている場合ではない。追いつかれたのなら味方が追いついたという事でもある。鮫倉とは、無理に勝負はしないと決めた。

「やっ、チャロッ!」

 鮫倉に奪われる前にボールを真横に蹴る。追いついた「林田はやしだ 紗楼しゃろ」が通り過ぎかというスピードで真横のパスを受け取った。

(こっち見ながらゆうなッ、パスバレバレだろってッ!)

 林田は心の中で悪態を着きながらも速度を緩めず遠くにボールを蹴り飛ばしながらコントロール。そのまま全速ドリブルでゴールに向かう。だが鮫倉も、ボールを持った林田をすぐに追尾に向かう。

(ちょっ、速すぎんだろッ)

 後方から迫る圧力は振り返らずとも、鮫倉だともうわかる。フォワードというポジションで鍛えた足の速さがディフェンダーとしても活かされている。

(くぉのッ)

 だが、林田も足の速さと追い込まれた時のタフさには自信がある。そして、一年生だからと追う鮫倉を絶対に侮らない。ありえないとは思わない。先輩達から代々受け継がれた西実館ディフェンス鉄の言葉「ありえないという自分をまず潰せ」が生きている。


 林田、全力で前だけを見すえてドリブルだ。


(き、来たッ)


 ゴール前の天生、迫る林田と後を追う鮫倉に緊張の面もちだ。15分ハーフという短い試合時間、ここで2点目のゴールを奪われれば逆転のチャンスは遠くなる。先制点を奪われたのは飛び出してしまった自分という自覚はある。正直、練習なのに熱くなり過ぎだと思う自分も天生の中にはあったが、寺島の悔しいという言葉は確かに刺さっている。自分だって悔しい、キーパーに慣れていないという言い訳はもうしない。いまは自分がキーパーだ。ゴールは守ってみせる。


(ぜったい守ってみせるッ!!)


 林田がペナルティエリアぎりぎりでドリブルの勢いのまま全力でシュートを撃ち込んできた。天生、予測した決死のセービングで左に飛んだ。威力のあるボールは左に向かっている。


(あっッ!?)


 天生の伸ばした手に、ボールは掠らず勢いよくゴールを喰いに飛んでゆく。


 一年生チーム、万事急須かっ。



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