第47話 地上では……。3
ドレイクの手の中から降りたメアリが、地面の感触を確かめるように軽く足下を踏み鳴らす。
ふと、周囲に目を向けると、誰しもが頭を下げて、メアリたちを眺めていた。
「古竜様が人の姿に。2人の娘様まで……。ありがたや、ありがたや……」
「古竜に魔法を撃つなんて、バカなマネを! あの娘の首だけじゃダメだ。平民たちの首も差し出すぞ」
「いや、動くな! 下手に刺激するんじゃねぇ!」
拝むように見上げる者や、怯えた瞳を向ける者。
右を見ても左を見ても、市民や貴族を問わずに、誰しもが地に伏していた。
立っているのは、人の姿に戻ったドレイクとメアリ、背後に控えるリリだけだ。
突然の状況ゆえに、リリの心の中では、
“ 次女ってなに! なんでそうなったのか知らないけど、絶対におかしいでしょ!? どうして私まで拝まれてるのぉぉぉぉおおおおお!!!! ”
なんて叫んでいると思うのだけど、メイドらしい笑みで覆い隠す姿は、素直に賞賛できる。
ラテス殿下の接待を経験して、色々と頑張った成果だろうか?
(おい、あのメイドの魔力、やばくないか!?)
(あぁ、竜の魔力とは明らかに違うから人間だとは思うが、俺たちじゃ束になっても瞬殺だ)
(ひっ! 長女がこっちを見た!!)
(かっ、神の加護を! 光竜の加護を! なにとぞ!)
ヒソヒソと話す兵士の声に振り向くと、その者たちの顔がすごい勢いで下を向いた。
そしてまた、別の方向からも声が聞こえてくる。
(公爵令嬢だ! あの長女って呼ばれていた方は、公爵令嬢のメアリ様だ。リアム殿下の護衛だった時に、見たことがある)
(!! それって、一方的に魔の森に捨てられた、って噂の!)
(あぁ、その御令嬢だ。速やかにリアム殿下から離れた方が良い)
(そっ、そうだな。巻き込まれたら ひとたまりもねぇ……)
兵士たちは、任務よりも自分の命を優先するようだ。
遠い場所に離れて片膝を付いて、メアリたちの動きを伺っているように見える。
視界の端の方に転がっているリアムも、今は気を失っているらしい。
「攻撃してくる者は……、いないみたいね」
「そうだね。1番お転婆だったお嬢ちゃんも、今は檻の中だから」
ドレイクに促されて視線を向けると、光の檻を握り締めた女性が、鋭い瞳で睨んでいた。
下唇を強く噛んだのか、口の端から滲む血が見える。
「メアリくんの知り合いなのかい?」
「いいえ、おそらくは初対面だと思うわよ?」
市民では買えないドレスを身に付けているから、たぶん貴族だとは思うのだけど、見覚えはなかった。
おそらくは、下級の騎士や男爵の家柄だろう。
「怨みを買った覚えも、ないわね」
頬に手を当てて悩んでみても、思い当たる節がなかった。
政敵であれば、その使用人の顔も覚えている。
おおかた、彼女個人の感情に由来する逆恨みか何かだろう。
そうあたりを付けたメアリが、ふと先程の言葉を思い起こして、ドレイクに視線を向ける。
「ドレイク殿下。転生者、って言葉に聞き覚えはあるかしら?」
「さっき、このお嬢ちゃんが言った言葉だね? あいにくと思い当たる節はないかな」
「そう、わかったわ。ドレイク殿下でも知らないとなると、造語か何かかしら?」
お前も転生者か、ってことは、少なくともこの女性は、転生者なのだろう。
意味もわからないのだけど、何かが引っかかる。
そんな思いを胸に、メアリが首を横に振った。
「……まぁ、良いわ。転生者に関しては、あとで文献でもあさることにして」
今はリリの弟くんが先ね。
そう言って、リリとドレイクに視線を向けた。
暴れていた女性なんかに、構っている時間はない。
「リリの弟くんがいる家は、どの辺かしら?」
「えっ? えぇっと……、あっちに10分くらい走ったら着きます」
「10分ね……」
往復で20分、弟くんの準備を含めると早くても30分。
兵たちに敵対する意志はなさそうだけど、リアムが目を覚ますと面倒な事になりかねない。
「わかったわ。私とドレイクはここに残るから、リリはマッシュと一緒に、弟くんを迎えに行ってもらえるかしら?」
「この中を、ですか……?」
なんて言葉と共に、リリが住宅地の方に視線を向けると、頭を下げていた人々が一斉に立ち上がって、左右に分かれた。
見る見るうちに、1本の道が出来上がる。
あははー、と笑いながら、リリが頬をかいてみせた。
「大丈夫みたいです。行ってきますね」
「えぇ、お願いね。マッシュ、リリの護衛をお願いするわ。敵意のある人物を近付けちゃダメよ?」
「キュァ!」
任せとけ! とばかりにドンと胸を叩いて、1体のマッシュがリリの前を行く。
「光の精霊くん、キミもリリくんの護衛を頼めるかな?」
ドレイクの手に光が集まり、小さな玉と成って、リリの頭上へと飛んで行った。
頭の周囲、肩のまわり、腰から足先へと回り続けて、最終的にはリリの背後を守るように動きを止める。
そうしてリリの背中が、人々の中へと消えていった。
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