君がいるなら何処へでも
ソフィア、ミカ、気絶しているクロード抱えたジェスは、学園内の校舎を早足で歩いた。
クロードが死んでしまうかもしれないというショッキングな事実から気をそらせたい為か、ジェスはミカにひたすら話しかけた。
「それにしても、俺も驚いたぜ!学園の校舎内にあんな隠し部屋があったなんてな!さっきソフィアに言われて、半信半疑で開けてみて、なんじゃこりゃってなったんだよ。·····って、よく見たら、ミカお前!すげぇ格好してんな!これ着ろ!目の毒だ!」
ジェスが上着を投げて寄こした。
ミカは自分の格好をハッと見て、顔を赤らめた。
胸が大きくてシャツが閉まらず、第5ボタンくらいまで開けたままだった。
ミカは慌ててジェスの上着を羽織りながらジェスとソフィアに聞いた。
「隠し部屋って?·····もしかして、リカルド・キティが鏡を、隠した部屋のこと?」
ミカの問いかけに、ソフィアが答えた。
「やはり、あの手紙にはその鏡の事が書かれていたのですね。そうです。ジェスにはもう伝えましたが、ミカエル様、クロード様の命を救うには、その鏡であちらの世界に行くしかないのです。先にお二人の使獣の黒鷲と黒兎は、その隠し部屋に移ってもらい、待っててもらってます。·····使獣は主がこの世にいなくなると死んでしまうので、一緒に向こうの世界に行って頂くのが良いかと思ったのですが·····どうでしょうか?」
「そっか。本当にあちらの世界に帰れるんだ·····。色々、本当にありがとうソフィア。ダルが死んでしまうのは嫌だから、ダルさえ良ければ、一緒にあちらの世界に行きたいと思うよ。」
先を歩くジェスが、何も無い白い壁の前でピタっと立ち止まって言った。
「ここだったよな?ソフィア。·····ミカ、ちょっとクロード預けたわ。ちょっと力仕事なんだ、これが。100キロくらいあるんじゃねぇかな、これ。」
ミカがぐったりとしたクロードを受け取ると、ジェスは腕まくりをしてしゃがみ込んだ。
そして、壁の下の方にあった小さな窪みに指を差し込み、力を込めて持ち上げた。
「ふぬぬぬ·····今のうちに早く通れ·····あんまり長くは持たねぇ!」
ジェスが持ち上げてくれた扉をソフィアと、クロードを抱いたミカが慌ててくぐって入った。
その後すぐ、ジェスは壁を下ろした。
ドスン·····と重たい音が響き、薄暗い部屋に埃が舞った。
人が1人通れる程度の細長い部屋の中には窓はなく、ガラス張りの天井から光が漏れてくる程度だ。部屋の奥に、立派な額縁の大きな古い鏡が置いてある。
「ミカ!!無事だったウサか!心配したウサ!!」
ぴょーんと、ダルがミカの胸元に飛びついて来た。
「ダル!心配かけてごめんね!」
「ソフィアから、あちらの世界に行く話を聞いたウサ。」
「そうなんだよ·····ダルも、一緒に行って貰えるかな?」
「もちろんウサ!あちらの世界の美味しい食べ物を食べてみたいウサ!」
「ハハ·····ダルは本当に食いしん坊だなぁ」
「クロードの使獣の黒鷲のグラも、『クロードがいる所なら何処へでも行くクー』って言ってるウサ」
「良かった·····この鏡を通れば、むこうの世界に戻れるのか·····」
その時、うめき声をあげながら、クロードが目を開いた。
「うぅ·····ミカ·····ここは、どこだ?」
「クロード!気がついたんだね!良かった!ええっと、説明が難しいけど、ここは学園の隠し部屋で、この鏡を通れば、私が元いた世界に戻れるらしいんだ。そして、クロードの命を助けるにはこの鏡を通るしかないの。·····クロードも私と一緒にあちらの世界に、来てもらっていいかな?」
「そうか·····ミカのいる所なら何処へでも行くよ、私は·····。」
「クロード·····」
ミカとクロードの会話に、ジェスが割って入った。
「クロ!俺は未だに、お前の側近でいたいと思ってるんだぜ!·····でも、お前の命を救うには仕方ねぇんだよな。·····これから俺がこの国の王子になるとか、マジで無理だよ·····。俺も一緒にそっちの世界に行きてぇくらいだよ·····。これから北の大国との戦もあるみてぇだし、俺も近々死ぬんじゃねぇかな。」
珍しく弱気なジェスに、ソフィアが諭すように優しく言った。
「いけません·····この鏡を通れる人数には限りがあるのです。向こうの世界から来た人とその使獣なら通れます。そしてその人が通った後しばらくの間のみ、こちらの国からは1人とその使獣だけ通れるのです。·····それに、ジェスの命の危機は避けられます。なぜなら、私がこれからずっとお側で、最善の策を未来予知で見続けるからです。·····さぁ。お二人があまり未練を感じずにすむように、気持ちよく送り出して差し上げましょう」
その言葉を聞いてミカが、ソフィアに微笑みかけながら言った。
「ずっと側で未来予知してあげるって事は、つまり·····ソフィアはジェスのプロポーズを受けるって事なんだね」
ソフィアが赤くなりコクンと頷くと、ジェスが急に大声をあげた。
「ま、マジか!よっしゃあああ!元気出た!王子だって、なんだってやってやる!この国のことは任せろクロ!お前は安心して、向こうの世界でミカと幸せになれ!」
ジェスの気の変わりように苦笑しながら、クロードはかすれた声で言った。
「2人がつくる国ならきっと明るい良い国になるだろう。·····ジェス、あとは頼んだ·····」
「おお!任せろ!クラスの皆には、2人は遠い国で幸せに暮らしてるって伝えておくぜ!あながち間違ってねぇからな!ティラノ号の事も任せろ!俺が乗れるようになっておくから、馬肉にさせたりはしねぇ!」
「ありがとうジェス!·····そう言えばソフィア、私が向こうの世界に行ったら、この身体·····ミッシェルはどうなるのかな?」
ソフィアは言いにくそうに、言葉を繋いだ。
「ミッシェル様は本来はもう天命尽きている方のようですので·····この世から、いなくなります·····」
「そうか·····サーシャお祖母様は悲しむだろうな·····」
ジェスが、安心させるように明るくほほえんでミカに言った。
「ラビ家の爺さん婆さんについても、悪いようにはしない。後は任せろ。お前らは安心して向こうの世界に行くといい」
ミカがジェスに頷いたその時、クロードがゲホッと咳込み血を吐いた。
(まずい·····矢傷で肺が傷ついてたのか?早くしないとクロードの命が尽きる!)
ミカは慌ててクロードを抱いて、鏡に向かって歩いた。
ぴょこぴょこと、ダルもミカの後をついてくる。
黒鷲のグラは鏡の額縁の上にとまり、心配そうにクロードを眺めている。
鏡はミカが近づくと、急に光を帯びて、乳白色に輝いた。
ミカが鏡に手を差し込むと、スっと手が中に消えた。
ミカは振り返り、ジェスとソフィアに言った。
「本当に今まで色々ありがとう!クラスの皆にも、オリバー先生にも、ホセ君アニタさんにも·····本当に心から感謝してると伝えてください!·····ジェス、ソフィア!末永くお幸せにね!」
そう言ってミカはクロードを抱いて、光る鏡の中に入っていった。
全身が光に包まれた瞬間、ミカは意識を失った。
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