「わあ」

 一面の、蛍。

「なにこれ。綺麗」

 蛍の光。何もない空間を、満たす。

「そうだな」

 隣には。彼。

「よお。連絡したのに来なかったな」

「だって」

「まあ、いいよ。こうして会えたんだから」

 夢なのだと、なんとなく、思う。

「ねえ」

「うん?」

「キスして」

 いつも通りの、キス。ぺたぺたという音。

「下手なキスね」

「失礼なコメントだな」

「だって、そうなんだもの」

「俺以外の誰かとキスしたことあるのか?」

「ない」

 彼。笑いをこらえる顔。

「なによ」

「いや。なんでもないよ」

 蛍。周りを光が走っていく。

「蛍って、なんか、えっちね」

「え?」

「おしりが光ってるから」

「失礼なコメントだなあ」

「だっておしりが」

「わかった。わかったから」

 彼。耐えきれず笑い出している。

「ねえ。わたし以外の誰かと、付き合ってたり、したの?」

「おっ。今日いちばん失礼なコメント来たぞ」

「おしえて」

「しいて言うなら、仕事と付き合ってるかな」

「そうなんだ」

「でも、君の代わりはいないよ。君一人だ」

「へえ。下手なキスなのにコメントは上手ね」

「おほめいただき、光栄です」

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