着ぐるみ転生。 異界に召喚されたら、着ぐるみが脱げなくなってしまった。

チョコレート

第1話 異界召喚 ①

 私は今年から新素材開発をする会社に新入社員として働いていたのだけど、私のイメージしていた職場とは全く違っていた……


「芦田真木! 早くPGのレポートを提出しろ!」

「は、はい! 今日中には出さします!」

「今日中じゃ遅い! 14時までには出せ!」

「ええ!? 昨日渡されたばかりなので、まだテストも終わってないですよ……」

「チッ、とろいやつだな。仕方ない……18時までには終わらせろ。それ以上は待たない」

「わ、分かりました!」


 私は頑張って有名大学を卒業して、世界的にも有名な新素材を発表して売り上げを伸ばしている有名な会社に就職出来て、給与も同世代の友達と比べたら2倍近く貰える優良企業だったのだけど……


 私が配属された場所は、着ぐるみ部門という可愛らしい名前なのだけど、実際には新たに開発された素材を使って作られた各種着ぐるみの性能テストを毎日していた。


 そして、先ほど私を怒鳴り付けてきたのは、素材開発部門の変態と呼ばれている超天才・白木エルだった。


 白木エルは雑誌などにも度々紹介される程の超天才で我が社の開発した新素材のほとんどは白木エルのアイデアだったりする。


 私も就職する前までは、白木エルの様な世界の役にたつ凄い新素材を開発するのに関われるのかと期待を膨らませていたけど、実際には着ぐるみの着て走ったり泳いだりした結果を記録して、性能評価レポートを提出する作業を毎日していた。


 まあ、これが入社して数年だけの事ならば下積み時代だと思い、頑張れるが……着ぐるみ部門で10年近く働いている先輩も私と同じ様な着ぐるみを着て性能テストをしているのを見てしまうと、絶望感が凄かった。


 私はこの会社にいる限りずっと着ぐるみを着ているのではないかと……


 先輩は極稀にだが着ぐるみ部門から別部門に異動される場合もあるから頑張れと言ってくれるのだけど、極稀ってどの位の確率なんだろう?


「とりあえず早くレポートを書くための性能テストをしないと……」


 現在、私が白木エルから請求されている着ぐるみは、ほぼ擬態化出来る動物着ぐるみシリーズの13号……ほぼペンギンスーツというもので、白木エル曰く水中での高速水泳性能や氷点下での保温性能など軍事利用すら出来るだろうという超高性能素材らしくて、この新素材を試すためにリアルペンギンに似せた着ぐるみを作り、施設内にある巨大プールにて、性能テストをしていた。


 巨大プールでは50メートルのタイムや潜水時間、ターン速度、乾燥時間などを何回もテストしなくてはいけないので、休む時間はほとんど無かった……


 この巨大プールでのテストが終わったら、次は氷点下でのテストかぁ。


 そんな事を考えながら潜水時間を計測していたら、そこで私は突然身体が硬直してしまった……


 えっ!?

 ヤバい、身体が全く動かない……しかも意識まで……


 私は意識が無くなりながら巨大プールに沈んでいった。




「勝手に召喚しておいてそんな理不尽な事ってないだろ!」

「そうだ! そうだ!」

「俺達は勝手に召喚されたんだから勇者以外も面倒をみろよ!」

「我が国が召喚したのは勇者様だけです、ですからあなた達は勝手に勇者様に付いてきただけですので、我が国があなた達の面倒をみることはありません」


 そして、目覚めた私が目にしたのは学生服を着た集団と鎧を着た集団との言い争いだった。


 えっ?

 これはどういう展開なの?


 学生服を着た高校生位の男女の集団は30人以上は、全身鎧を着た五人と今にも衝突しそうな雰囲気だ。


 私は一切発言をせずに両サイドの言い分を聞いていると、鎧を着た側の国が勇者を召喚するために異界召喚という禁忌の魔術を行使したら、私も含めて勇者以外の一緒にいたクラスメイトも全員召喚されたらしい。


 そして、勇者はみんなよりも先に国王に挨拶をするところ理由で、召喚儀式を行使した王女と共に王宮に向かったらしい。


 他のクラスメイトも人数が多いという理由から、後から大型馬車などで王宮に向かうと勇者に説明していたけど、勇者とクラスメイトが別れたあと、国側の言い分が一転してクラスメイトの中で使える人以外は国外追放にすると言い出したらしい。


 そこで現在、国外追放を言い渡された高校生と全身鎧の騎士との言い争いが展開しているみたいだった。


 ちなみに教師も一緒に異界召喚されてきたらしいが、使える側の人間にカウントされたらしくて、残された生徒達をあっという間に切り捨てたらしい……


 最低な教師だな……


 しかし、何故私は誰からも起こされる事なく話が進んでいるのだろうか?


 いくら私が無関係の人間だからって、起こしてくれても良いのになと思った。


「あっ、ペンギンちゃん、起きたのね」

「クワッ?(ペンギンちゃん?)」


 あれ? 話が出来ない……


 って、着ぐるみを着たままなのかっ!


 私はびっくりしながらも自分の手を見て、着ぐるみのまま異界に召喚されたのだと気がついた。


 だけど、何で着ぐるみを着ているだけなのに喋れなくなっているの?

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