カラオケソング

「君の〜瞳に〜恋をした〜。僕の心は〜切なさで〜フォーリンダウン〜」


結局俺は悩んだ末に、隼人に付き合わされて、歌えるようになったラブソングを選んだ。

春香も目の前で昔のアニメソングを歌われてもテンションが下がるだろうから、もうラブソングで押し切るしかない。

というより、隼人がラブソングのみをひたすら練習していたので、当然俺が歌えるのもラブソングしかない。

春香が真剣に聴いてくれているのがわかるので必死に歌い切る。


「海斗、いい歌だね」

「そうかな、なんとか歌えたよ」


カラオケに2人でくると、春香の歌声をずっと聴いていられるのは嬉しいが、それは数分毎に俺の順番になるということで、あっという間にまた俺が歌う事になってしまった。


「愛が〜燃える〜。世界中が敵だとしても〜俺は〜バ〜ニング〜」


ううっ、隼人と一緒に歌っていた時には何も感じなかったが、春香の目の前でこれを歌うのは流石に恥ずかしい。

俺の下手な歌と、この歌詞にもかかわらず、春香が真剣に聴いてくれているのを見ると歌詞に劣らず羞恥で俺の身体もバ〜ニングしそうになる。


「海斗、カラオケには結構来るの?」

「いや、そうでもない。ほとんど来たことないし」

「そうなんだ」


なんとなく春香の反応がさっきと違う気がするけど、下手すぎただろうか。

会話もそこそこに春香の歌が始まる。


「カシューナッツ〜私、大好き〜。あなたがスパイだとしても〜」


先程同様に春香の美声に酔いしれる。

全然知らない歌だけど、春香が歌うと名曲に感じてしまう。

贔屓目なしで、巷のアイドルなんかよりずっとうまいんじゃないだろうか。


「やっぱり、春香歌がうまいね。今の曲流行ってるの?」

「海斗、ダンジョンも大事だけど、世の中のことにもちょっとは目を向けた方がいいかも。入試に時事問題とかも出たりするから」

「そうだよな〜。ダンジョンじゃスマホも繋がらないし毎日潜ってると、世間から取り残されてる実感はあるんだけど、こればっかりはな〜」


やっぱり流行りの歌だったらしい。

ダンジョンと日常生活の両立か〜。

上位陣はほとんど篭ってるような人もいるって言うしな。

正直隼人経由のラブソングしか歌えないのもヤバい実感はあるが、次もラブソングしかない。


「わずかなこの刻で〜一生分の恋をした〜ああ〜」


「海斗、続けてラブソングだね。やっぱり結構歌い慣れてる気がするんだけど、もしかして誰かに歌ったりした?」

「いや、前に隼人に付き合わされたんだよ」

「男の子だけでラブソング?」

「ああ、真司もいたけど、主に隼人の希望で。どうしても女の子とカラオケ行く時の練習だって」

「男の子3人でラブソングの練習してたの?」

「そう。隼人がラブソングしか歌わないから、3人でずっとラブソングだけ練習したんだ」

「そうなんだね。隼人くんらしいね」

「前にダンジョンで知り合った女の子とよくカラオケに行ってラブソングを歌ってるんだって」

「もしかして隼人くんの彼女なのかな」

「う〜ん彼女って感じではないと思うけど、最近は、連絡が少なくなってるって嘆いてたな」

「そうなんだ。多分だけど隼人くんもいろんな歌を歌った方がいいと思うな」

「あ〜ごめん。俺あんまり知ってる曲がないんだけど。古いアニメソングでもいいかな」

「ううん、海斗は別にいいんだけどなぁ」


結局、この後は古いアニメソングもなんとか歌い切ったが、音痴な俺を春香が暖かい目で見てくれていた気がする。

今度カラオケに来るまでには、ラブソング以外も歌えるようになっておこうと思う。

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