shampoo
シャンプーは英語でshampooだったよな。
受験に出るかな……
いや普通に考えてでないよな。
トリートメントの綴りはtreatment。
やばい、教科書よりも春香の髪のことばかりが気になってしまう。
今になって思うと前回も春香の髪とその匂いが気になって集中できなかったんだった。
特別匂いフェチでもないはずだが、これでは変態と間違われても文句は言えない。
無だ。無の境地だ。
心を落ち着けよう。そして無心になる。
「海斗、手が止まってるけどわからないところがあるの? 聞いてくれれば教えるよ」
「いや、そういうわけじゃないんだ。大丈夫、ありがとう」
だめだ。無心はだめだ。勉強のことまで頭から消え去ってしまう。
『コンコン』
俺が雑念と格闘していると部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「お茶持ってきたわよ。春香ちゃん勉強はかどってる?」
「ありがとうございます。まだ始めたばっかりです」
「そう。今日は晩御飯食べていくわよね」
「はい、お邪魔します」
「ちなみに今日は、マグロのカルパッチョにあぐー豚のグリルだから期待してね」
「ありがとうございます」
春香はうちで晩御飯を食べるのか。しかもマグロのカルパッチョにあぐーのグリル!? 普段そんなの出てきた事ない。というよりも十八年間で一度も出てきたことのない料理だ。それにあぐーって沖縄の高級豚じゃないのか? 一度もそんなの食べたこともないぞ。どう考えても春香が来る事を知っていたとしか考えられない。
春香のママか? いやもしかしたら春香?
毎回俺の知らないうちに、いろいろ話が決まっているのが少し気になるが、春香と一緒にご飯を食べることができるのは、素直にうれしい。
母親が出て行ってからは、気持ちを切り替えて、問題に集中し勉強をこなしていく。
「ふ〜っ、結構進んだな」
「そうだね。これなら模試も頑張れそうだね」
「もちろん頑張るよ。そろそろ夕飯の時間だからここまでにしようか」
「うん、続きは明日にしようね」
階段を降りると、既に晩御飯が用意されていた。
「春香ちゃん、勉強見てくれたんだって? ありがとう。これからも海斗をよろしく頼むよ」
「はい」
帰って来ていた父親が春香に声をかけてくる。
「もっと来てくれていいんだよ。いつでも歓迎だから」
「ありがとうございます」
父親は、それほど春香のことを知っているわけではないと思うが、思いの他フレンドリーな感じでよかった。
四人でテーブルに座って、夕食を食べ始める。
マグロのカルパッチョ。
普通に美味しいが、カルパッチョなんかどこで習ったんだ? 前回春香の家でサーモンのカルパッチョを食べたけど、やっぱり春香のママにでも習ったのか?
それにあぐーのグリル。いつも食べている豚肉とは明らかに違う。肉に甘みと旨味が強い。
普段カレーばっかりなのに春香が来た途端、テーブルにはおしゃれメニューに高級食材が並んだ。
「どちらも美味しいです」
「あら〜口にあってよかった。家ではよく作るんだけど春香ちゃんの口に合うか心配だったのよ」
「ありがとうございます。こんなにおいしいものをいただいて大満足です」
「うれしいわね〜明後日も期待しといてね」
家でよく作る? 俺は初めて見たぞ。それに明後日も春香はうちでご飯を食べるのか。この際母親の嘘はどうでもいいな。
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