噂をすれば

初日にしては十八階層の探索は俺のお昼ご飯を除けば順調に進んでいる。

一番の要因はカオリンが戻って来たお陰だが、これまでの戦闘で人型モンスターへの対応が上手くなっている事も大きい。伊達に十七階層に及ぶダンジョンを超えて来たわけではない。


「ご主人様、今度は二体です」

「俺とベルリアが前衛であいりさんはすぐ後ろについてください」

「わかった」


これまでの感じなら、余程の事がない限り二体であれば問題無いだろう。

俺とベルリアは武器を構えて奥へと進む。


「あっ……」


奥には人型のモンスターが待ち構えていたが、明らかに今までのモンスターとは風貌が異なる。

骨でも無いし腐ってもいない。明らかに普通の人間の様な出立ちをしている。

遠目に見る限りはクラシカルな服を着ている事以外は特に変わったところは見受けられないが、どう見ても探索者では無い。


「ベルリア、あれって……」

「マイロードおそらくヴァンパイアでしょう」

「ヴァンパイア……」


ヴァンパイアと言えば以前戦ったブーメランパンツのマッチョなおっさんを思い浮かべるが、今眼前に見える相手は普通だ。服も普通に着ているし、特に変態性を思わせる要素は見受けられ無いが少し前にカオリンが話していた内容が頭をよぎる。


「ヴァンパイアに噛まれて死んだ人もいるらしいです」


噛まれたら死ぬかもしれない。もしかしたら狂犬病的な変なウィルスが原因かもしれないが、モンスターだけに未知すぎる。

もしそうならレベルとか耐性とか関係なさそうだし考えただけで身震いしてしまう。


「ベルリア速攻で終わらせるぞ」

「お任せください」


俺は気配を薄めてヴァンパイアに向け駆け出し、そのまま加速する。

得体の知れない敵は速攻で倒してしまうに限る。

ヴァンパイアもこちらに気がついた様で、こちらに向かって手をかざすが、その瞬間、俺の前方に小型の雷が落ちた。


「魔法か!」


敵は二体なので、もう一体はベルリアを攻撃したのかも知れないが確認する余裕は無い。

ヴァンパイアの魔法が外れたのはナイトブリンガーの効果で認識が阻害されていたのと、俺が全速力で駆けていたからだろう。

と言う事は足を止めるとやばい。

更に加速してそのままヴァンパイアを目指すが再び雷が落ち俺の行く手を阻む。

前方に落ちた雷に行手を阻まれその場で止まってしまった。

まずい……

足を止めてしまったせいで完全にヴァンパイアに捕捉されてしまった。ヴァンパイアに目を向けるとその赤い目としっかりアイコンタクトしてしまった。

しっかりとこちらを捉えたヴァンパイアの赤い目は、明らかにその瞬間嘲りの感情を湛えていた。

やばい避けられない。

やられる!

そう思った瞬間、後方からあいりさんの声が聞こえて来た。


『アイアンボール』


あのブーメランパンツのマッチョを地獄へと突き落とした鉄球が現れヴァンパイアに向けて一直線に突き進み、腹部へとめり込んだ。

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