第671話 ゴブリンを討つ

野村さんと二階層に降りて探索を始めるが、よく考えてみると誰かと二人で探索をしていたのは、シルと出会ってからルシェを召喚するまでの数ヶ月間だけだったので随分久しぶりだ。

俺は見本を見せる為に野村さんに渡したボウガンを返してもらいバルザードはマジック腹巻に仕舞い込む。


「先輩のそれってもしかしてマジックポーチですか〜?」

「ポーチではないけど、まあ、似たようなもんだよ」

「やっぱり! それって一千万円ぐらいするんですよね。流石『黒い彗星』はお金持ちですね。憧れる〜!」

「ああ、これは中古で格安だったから、そこまで高くなかったんだ」

「中古なんかあるんですね。いいな〜。いいな〜」

「これは貸せないぞ」

「わかってますよ」


野村さんと話しながら探索を続けると、五十メートルほど先に小さくゴブリンを確認する事が出来た。


「野村さん、ここからはおしゃべりは無しで! 音を立てずに俺の後ろを歩いて来て」

「はい! わかりました!」


やっぱり野村さんは大物かもしれない。彼女にもゴブリンは見えているはずなのに、それほど緊張した感じが

しない。

俺は音を立てずに慎重にゴブリンへと近づいて行って三十メートルほどの距離まで迫ったその瞬間、ゴブリンがこちらに気がついた。

こちらを目視したゴブリンは臨戦態勢を整えてから、俺達の方に向かって一気に加速して来た。

俺は、その場でボウガンを構えて冷静にゴブリンが射程に入るタイミングを待ってからトリガーを引く。

一直線に飛んでいった矢が俺達から十メートルほどの位置でゴブリンの胸部を貫き、ゴブリンはその場で倒れて消失した。


「先輩! ゴブリンやばいですよ。あれ何ですか? スライムと大きさも迫力も全然違うんですけど。モンスター〜ですよ。モンスター!」

「いや、それはそうだろう。だから俺も倒すのに二年もかかったんだよ」

「あっさり倒した海斗先輩も流石ですよ! だけど、ゴブリンの魔核ってあれですよね。スライムの魔核とあんまり変わらないような気がするんですけど」

「強さは段違いだけど、売値もほとんど変わらないからな〜。だけど、ここで戦えるようにならないと、この先のモンスターとは渡り合えないからな。とにかくここでやっていけるようにならないといけないんだ」

「わかりました。がんばります!」


ちょっと、心配もあるが何事も経験なので、ボウガンを野村さんに返して俺はバルザードに持ち替える。

何か有れば俺がすぐにフォロー出来る様に横について進んで行く。

シルがいないのでいつものようにはスムーズに探索は進まず、なかなかゴブリンに出会う事が出来ない。

ただ歩いているだけだが、この階層を初めて探索する野村さんには既に色濃く疲労の色が見られる。

この調子だと、集中力がそんなに長時間は持ちそうにないので、そう長くは潜れないな。

俺は野村さんの様子を横目で確認しながらダンジョンを進んで行く。


「先輩〜。もしかしてあれってゴブリンですか?」

「ああ、間違いなくゴブリンだな」

「それじゃあ、やりますね!」

「ああ、引きつけて五〜六メートルの位置から撃つんだぞ」

「わかってますよ〜」


野村さんは、その場でボウガンを構え直してゴブリンへと進んで行く。

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