第667話 告白のオープンカフェ

春香は相変わらず笑顔を見せてくれている。

周りの人もさっきと変わった様子はない。

この急激な変化を感じているのは俺だけのようだ。

探索者として日頃鍛えた感覚が常人には感じられないものを感じ取っているのかもしれない。


「一緒にダンジョンに潜ってあげるなんて、やっぱり海斗は年下の女の子に優しいんだね」

「いや、年下だからってわけではないんだけど、あんな感じだけど実は彼女お金に困ってるみたいで」

「そうなの?」

「野村さん母子家庭で弟と妹がいるんだって」

「そうなんだ……」

「家計を助けるために探索者として稼ぎたいらしいんだけど、もう一年近く一階層から抜け出せていないみたいで、俺も三年同じ感じだったから気持ちがよくわかるんだ」

「そう、海斗は優しいね」

「え? いや、そんなんじゃないよ。暇だったらちょっと助けてもいいかなと思っただけだから」

「あの子を助けてあげたいんでしょ」

「まあ、俺も少しは春香みたいに……」


春香と会話しているうちに、先ほどまでの冷気とプレッシャーが消えている。


「私? 私は何もしてないよ?」

「いや……小学生の時に助けてくれただろ?」

「あ、あ〜。そんなことあったかなぁ〜」

「きちんとお礼言えてなかったけど、本当にありがとう。春香のおかげで救われたんだ」

「わたしそんなに大したことはしてないんだけど……」

「あの時、春香の助けがなかったら今の俺はなかったと思うし、探索者にもなってなかったと思う。本当に感謝してるんだ。ありがとう」

「うん……」


本当はあの時にきちんとお礼を言うべきだったのに、照れ臭さもあって今日まで触れずにきてしまった。

だけど、野村さんの話題から、今日お礼を言えてよかった。


「俺もあの時の春香みたいに、少しは人の助けになりたいとは思ってるんだ。春香と違って俺にはあんまり大したことはできないけど、俺の周りにいる人達が困っている時の助けぐらいにはなりたい」

「そんなこと……うん」

「周りにいる人達ぐらいは危ないことがあれば守ってあげれるようになりたいんだ。だからカオリンのことも助けてあげたかったし、野村さんも俺を頼ってきたから少しは助けてあげたいと思ったんだ」

「うん。海斗は立派だよ。わたしなんかよりずっと立派だよ」

「そんなことないよ。俺のは春香の真似だから。あの時の春香に憧れて……」

「……ありがとう」

「え? お礼は俺がしてるんだけど」

「随分前のことなのに、そんな風に思ってくれてて嬉しいよ」

「春香は俺の永遠の英雄だから」

「海斗……そんな真剣に言われたら恥ずかしいよ」

「あ、ああ、ごめん」


この思いを人に伝えたのは初めてだが、まさか本人に伝える日が来るとは……

勢いで言ってしまったが、言ってしまってから照れている春香を目の前にして急激に恥ずかしくなってしまった。

言葉に嘘はないが、言葉にしてしまうと恥ずかしすぎる。

ある意味告白よりもくさいセリフだったかもしれない。

全身の体温が急速に上昇して顔が熱い。

先程まで寒かったのに、真夏に入るサウナ並みに熱い。

あ〜汗が吹きだしてきた。

いったいさっきまでの冷気はどこにいったんだ?


「海斗、せっかくだから早く食べようよ」

「ああ、そうだな。このニューヨークチーズケーキ美味しいなぁ。ニューヨークのチーズケーキって全部こんな感じなのかな」

「うん、どうだろう? このミルクレープもおいしいよ」


春香に思わぬ告白をしてしまったが、この後しばらくは二人とも照れてしまい、ぎこちなかったが、春香も嬉しいと言ってくれたし結果的によかったと思う。

いずれにしても、強烈なプレッシャーも去り、差し迫る危険はなくなったようだ。

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