第609話 くっ……
「ルシェ様、援護します!『ライトニングスピア』」
ミクが雷の槍を上空の赤いワイバーンに向かって放つが、二体のワイバーンが放つ炎の塊とぶつかり相殺されてしまった。
この時、俺は初めてスキルによる雷と炎が打ち消し合うことを知ってしまった。
今まで炎で雷が消されるイメージは湧かなかったが、ぶつかり合った瞬間にエネルギー同士が打ち消し合う感じで双方の攻撃が消え去った。
「ミク! 『ライトニングスピア』じゃ無理だ! 『幻視の舞』を試して!」
数が違うので雷の槍でダメージを与えることは難しい。
それなら打ち消されることのないスキルで攻撃しかない。
「やってみるわ! お願い効いて! 『幻視の舞』」
ミクが上空の赤いワイバーンの一体に向かって『幻視の舞』を放つ。
どうだ? 効いたか?
赤いワイバーンを注視するが、炎の塊を放つペースが落ちる様子はない。
「ミク! わたしに任せとけばいいんだ! 効果があったかどうかなんか関係ない! どうせ一瞬で消えて無くなるんだからな」
「はい!」
これってもしかしてルシェがミクのことをフォローしてるのか?
口は相変わらず悪いし、信じられないことだが、ルシェも少しは成長しているのかもしれない。
出来の悪い妹の成長に、足を拘束されているにもかかわらず俺の胸は熱くなってしまった。
「さっさと消えて無くなれ! 『黒翼の風』」
赤いワイバーンに風が集約していく。
ミクの時と同じくワイバーンの放つ炎の塊と衝突するが、ルシェの放った風の刃が消えることはなく、ワイバーンの放った炎の塊だけが一方的に消失した。
無防備となったワイバーンを風の刃が蹂躙して斬り刻んだ。
残る敵は一体。
最後の一体が炎の塊を放つが、炎がこちらを捉えることはなく大きく外れた場所に着弾する。
続け様にワイバーンがもう一発を同じ箇所へと放つ。
「これって……」
「ああ、間違いない。ミクの『幻視の舞』の効果だな」
先程、効果を表さずに効かなかったと思ってしまった『幻視の舞』だが、時間をおいて効果が発揮されたらしい。
今あのワイバーンは、あそこに俺達がいるとでも誤認しているのだろう。
「ミク、今なら殺れるんじゃないか?」
「やってみる! 『ライトニングスピア』」
ミクの放った雷の槍が完全に意識がそれ、無防備となっていたワイバーンの側頭部を貫いた。
「やったわ!」
最後の一体も墜落して消滅した。
「やっぱりわたしがいないとダメだな! ふふふっ。罠にかかるなんか論外だろ。それも三人もって考えられないって。ちょっと弛んでるんじゃないのか?」
くっ……
間違ったことは言っていないが、いつにも増して頭にくる言い方だ。
単純に自分は後方から来ていたから無事だっただけなのに。
「姫、申し開きのしようがございません。ルシェ姫のおかげで命拾いいたしました。感謝の言葉もございません」
「はい、ルシェ様は素敵でした。ルシェ様のおかげで助かりました。ありがとうございます」
「ふふふっ。そうだろう、そうだろう。ところで一名感謝の言葉を聞けてないやつがいる気がするけど、わたしの勘違いか?」
くっ……
「ああ、助かったよ」
「ああ、助かったよ?」
くっ……
「ルシェのおかげで助かった。ありがとう!」
「ふふふ、そうだろう。それじゃあ約束通り魔核をいっぱいくれよ」
「わかってるよ!」
「ご主人様、私もご主人様を御守りいたしました」
「ああ、もちろんわかってるよ」
ルシェ達が四体の敵を倒すと足の拘束は解けていた。
やはりこの罠は敵と連動していたらしい。
俺は約束通りルシェにいつもより多めの魔核を渡したが
「たったこれだけ? さっきのお礼は嘘か? 嘘なのか?」
くっ……
「わかったよ。これでおしまいだぞ?」
「しょうがないな〜」
くっ……
追加の魔核を受け取ったルシェとシルは満足そうな表情を浮かべて魔核を味わっていた。
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