第575話 アモーレ

「ミク、あいりさん助かりました。なんとか予約取れましたよ」

「よかったわね」

「どこに行くことにしたんだ?」

「アモーレっていうイタリアンのお店です。他は全部いっぱいでした」

「アモーレ……まあいいんじゃないか」

「海斗やるわね」


イタリアンを直前に予約出来たからか二人は妙に感心してくれている気がする。

どうやら俺の選択は間違っていなかったようだ。

トラップに気をつけながら昨日のポイントまで進んでいくが、出現するモンスターは既に戦った事のあるモンスターばかりなので上手く対応しながら進めている。

この階層は十六階層の様な特殊フィールドは無く、所謂普通のダンジョンだ。もちろんドラゴンが複数体出現するので、通路も含めてかなりの広さはある。

トラップについてもあからさまにわかるものは少なく、ベルリア頼みと各自が余計な所に触れないようにして進んでいるが、ルシェも反省して今は真ん中に近い部分を歩いている。


「そういえば、誕生日プレゼントはなにを買ったのよ?」

「ああ、ジュエリーショップで時計を買ったんだ」

「時計ね。結構やるわね」

「そうだな。海斗にしては積極的だな。アモーレに時計か」

「そうですか?」


アモーレと時計が積極的という意味はよくわからないが、時計のチョイスも二人には好評のようだったので、あの店員さんには感謝だな。


「やっぱり春香だったな」

「そうですね。うらやましいです」

「わたし達にはケチケチするくせにプレゼントまで買ったって言ってるぞ」

「そうですね。私もご主人様からのプレゼントを……」

「この前の赤い魔核がいいな」

「そうですね。赤い魔核をプレゼントしてもらえると幸せです」


シルとルシェはいつものように二人でこそこそ密談しているが、あまりいい予感はしない。


「ご主人様、敵モンスターが四体あちら側にいます」

「じゃあいつもの通りでいくぞ」


シルの指示に従いモンスターのいる場所へと向かうが、現れたのは氷竜と金属竜だった。


「ルシェ、わかってるな」

「うるさいな! 言われなくてもわかってるよ」

「シルとベルリアが金属竜を。俺とあいりさんとルシェで氷竜をやりますよ」


それぞれが、ドラゴンへと向かって走り出す。

先頭をベルリアが走り、俺とあいりさんが続く。

俺が注意するのは氷竜のスキルだ。

急に体幹が強くなる事などあり得ないので、今回は近づいたらスピードを落としゆっくりと移動する。

氷竜を目の前にして予定通りスピードを緩めるが、前回同様に氷竜もスキルを発動して足下の地面が凍り付いてしまった。

俺は慎重にその場から移動を試みるが、一歩動いた瞬間靴底がツルツル滑る。


「あっつ!」

スピードを緩めていたおかげで前回のように勢いよく滑っていくということはなかった。ただ気を抜くとすぐにでも転倒してしまいそうになるが、ドラゴンが俺の都合に合わせくれるはずもなく、その場に留め置かれた俺に向かって攻撃を仕掛けてきた。

ドラゴンが噛みつこうと襲ってくる。

俺は咄嗟にバルザードを振るい、ドラゴンの攻撃を食い止めるが、ドラゴンとの接触の瞬間、足下の氷の影響で踏ん張りがきかずに滑って、後方へと吹き飛ばされてしまった。


「くっ……」


四〜五メートルほど後方へと吹き飛ばされて地面に全身を打ちつけてしまい、痛みのせいですぐに起き上がれない。


「たかだか凍った蜥蜴の分際で海斗に! 調子にのるなよ。さっさと溶けて無くなれ!『破滅の獄炎』」


俺が吹き飛ばされたのを見て、ルシェが俺を庇うように、俺に攻撃してきたドラゴンに対して獄炎を放つ。

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