第561話 おうち焼肉
五千円の肉を手に持ちレジに並んだが、もちろんこれ程高額な肉を自分で買うのは初めてだ。
レジに金額が表示された瞬間、ちょっとドキッとしてしまったが、問題なく支払いを終えて家へと向かった。
「ただいま」
「海斗〜お肉買ってきた?」
「ああ、これ」
「あら〜もしかして和牛じゃない。しかも霜降り。こんなにいいお肉じゃ無くてよかったのに〜。和牛ね和牛」
母親は言葉とは裏腹に明らかにテンションが上がったのがわかる。
「お父さん〜、海斗が和牛買ってきたわよ和牛!」
「おお、和牛か。霜降りだな」
我が家では珍しい和牛の登場に両親が、和牛と霜降りを連呼している。
早速野菜と一緒にホットプレートで焼いて食べてみる。
「うん、おいしい」
「海斗〜、柔らかい! いつものお肉と違うわ〜」
「ああ、確かに美味いな。流石和牛だ」
五千円しただけあって、いつも家で出てくる肉よりも明らかにおいしい。柔らかいし肉の脂に甘味がある。
「海斗、どんどん焼いて」
「ああ……」
焼いた側から肉が消えていく。野菜はほとんど減っていないが、明らかに肉の無くなっていくペースが早い。
六百グラム買ったので三人には十分な量あったはずだが、既に半分以上が無くなってしまっている。
「家で焼肉もいいもんだな」
「そうね〜お父さん。海斗がまた買ってきてくれると助かるわね〜」
「わかってるよ。またそのうち買ってくるよ」
「悪いわね〜。今度はもっと安い肉でいいのよ。でも和牛はおいしいわよね。やっぱり和牛は違うわね」
これは暗に次回も和牛を買ってこいと言っているのだろうか?
ちょっと失敗したかもしれない。最初に買ってくるのが和牛だったので次回のハードルが上がってしまった。
こんな事なら今回は輸入牛肉を買ってくればよかった。
まあ確かに今食べている和牛はおいしいから、後悔はしていない。
ただ買ってきた俺以上に両親が肉ばかり食べているのは気になる。
「海斗〜和牛焼いて」
「もう、これで終わりだけど」
「え……嘘……」
「いや、本当だけど」
「足りないわよ。量が少なすぎるんじゃない」
「いや六百グラムだから一人二百グラムはあったはずだから、十分でしょ」
「海斗、次はもう少し量も頼んだぞ」
「わかったよ」
俺の両親は普段食べる量は至って普通だが、この量の肉をペロッと食べた上にまだ足りないらしい。和牛の力は偉大だな。
焼肉を食べ終わってからは学校の宿題をやって、眠りにつく事にした。
三年生になってから地味に宿題が増えている気がするが、探索のせいで学校の勉強が疎かになったとは思われたくないのでしっかりと終わらせる。そろそろ受験対策で王華学院の過去問題集を買ってきてやってみようかと思っている。
カオリンの件が一段落したら模試も受けてみようとは思っているが、今は無理だな。
次の日になり、いつもの様に学校へと向かった。
「あ〜春香、ちょっといいかな」
「うん、どうかした?」
「俺今ダンジョンで忙しくて土日の休みも潜ってるんだよ」
「うん、ミクからカオリンの事は聞いてるよ」
「それで昼間は無理なんだけど来週の日曜日の夜にご飯食べに行きませんか?」
「もちろんいいけど大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。じゃあ日曜日の六時三十分に駅前でいいかな」
「うんわかったよ、楽しみにしてるね」
春休みが終わってから春香と遊びに行けていなかったが、今週末だけはどうしても外せない理由がある。
今週末は春香の十八歳の誕生日なのでどうしてもお祝いをしたかったが、断られなくて本当に良かった。
残念ながらまだプレゼントも買う事が出来ていないので、明日の夜にでも買いに行こうと思う。
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