第504話 更に進む

足を取られた鎧の鬼は、覚悟を決めたのか正面を向きバスターソードを構え、あいりさんを待ち構えている。

あいりさんが少し離れた位置から薙刀を振るい注意を引きつけてくれる。

俺はあいりさんの背後から横を抜け鬼の後方へと走り死角に入る。

前回はここまでのことが出来ずに苦戦してしまったが、あいりさんと『アースウェイブ』のサポートがある今は問題無く遂行出来る。

背後に回った俺は、気配を薄めて鬼の背後に向けて歩を進めて、間合いに入ると同時にバルザードを振り切り切断のイメージをバルザードにのせて鬼の首を鎧ごと断ち切った。


「あいりさん、上手くいきましたね」

「ああ、あれだけ苦戦したのに今回はすぐに終わったな。本当に手慣れてきてるな」

「手馴れるというか、これしか無いと言うか。まあよかったです」


ベルリアを見ると完全に押し込んではいるが、やはり鎧の装甲が邪魔をして首を落とすところまではいっていない。

やはり、通常の武器で金属の鎧を断ち切るのは難易度が高いのだろう。

昔漫画か何かで刀で兜を割るのをみた気がするが、確か秘伝の上に刀の耐久性が損なわれるので何回も使える技では無かった気がする。

早くベルリアには魔剣を与えてやりたいので、この階層でドロップするのを期待して進んでいくしか無いがそれまでは俺が代わりに仕留めるしか無い。

俺は、ベルリアの相手にしている鬼の背後に回り込み先程と同じ様に近づいて止めをさした。

ルシェも既に戦闘を終えているので、今回もほとんど消耗も無く戦闘を終了させることが出来た。


「上手くいったわね」

「そうだな。このパターンで行けば西洋鎧の鬼も大丈夫だと思う」


先日苦戦した西洋鎧の鬼との戦闘もスムーズにこなして、16階層の探索は先週よりもペースアップして土曜日1日だけでかなりの距離を稼ぐ事が出来たので明日次第では攻略の目処も立ちそうな気がする。


翌朝、再び16階層に潜り探索を進める。


「そろそろ昨日の所まで来れたんじゃ無い?」

「ああ、思ったよりも早いペースだけど、無理は禁物だから」

「この階層もお別れが近いと思うと少し寂しいのです、コンッ」

「カオリン風邪治らないな」

「いえ、多分花粉症です」

「ダンジョンの中まで花粉ってあるのか。花粉ってすごいな」

「そうですね」

「ご主人様、あそこに敵がいます」

「え?いつもより近いな」

「申し訳ありません。気配が薄くて気づくのが遅れました」

「ああ、別に気にしなくていいよ」


シルが目視出来るところまで敵を感知出来なかったのは今まで初めてかもしれない。

目を凝らしてみると奥に小さく見えている姿は老婆。

老婆が3人佇んでいた。


「まさかあれって人間じゃ無いよな」

「老婆だけでこんなところにいるはずが無いからあれは間違いなくモンスターね」

「そうだよな。じゃあ、あれってもしかして鬼ババア?」

「海斗、正しくは鬼婆だ」

「やっぱりそうですよね。だけど母親とかの事を時々鬼ババアみたいとか言いますよね。でも俺の母親あんな感じでは無いですね」

「いくら例えでも、本物と比較するのはお母さんに失礼だろう」

「そうですね。俺の母親はもっと若いですしね」


話しながら近づいていくが、鬼ババアは歳のせいで耳が遠いのかこちらに気がついた様子は無い。


「ルシェ、いきなり行ってみるか?」

「いいのか?」

「なんか気がついてないみたいだしいいんじゃないか.」

「急に攻撃したら鬼みたいに怒るんじゃ無いですか?」

「鬼ババアってそんなもんだろうから気にしたら負けだろ。ルシェ頼んだ」

「まあ、いいけどこの距離で気付かないってヤバ過ぎだろ。年寄りはさっさと消えて無くなれ!『破滅の獄炎』」


ルシェの獄炎が鬼ババアの1体を捕らえ燃やし尽くすが、残りの2体はようやくこちらに気がついた様で、こちらを見た瞬間に奇声を上げて鬼の様な表情で怒り狂い始めた。

これが本物の鬼ババアの怒りか。流石に俺の母親が怒った時より迫力あるな。

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