第494話 黒

俺は、その後の戦闘で人数的なアドバンテージがある時は仕留め役に徹して戦う事にして進んだ。

お陰でMPの消費はかなり抑えられる事となり、あいりさんが矢面に立つ事が増えたものの、戦闘があっさりと終了する事も増えた為、結果としてあいりさんの負担も減り、それなりにバランスの良い状態を保つことが出来ている。

そしてそれは俺の仕事人化が進んでいる事を示しており、メンバーからお褒めの言葉を頂く事となった。


「影度が上がった上に職人らしくなって来たのです。正に仕事人です。後は武器を暗器にさえ変えれば………」


うん、俺は別に仕事人を目指している訳では無いから、今の武器のままでいい。

その後夕方まで数度の戦闘を経て今日の探索を終了した。


「それじゃあまた明日」


俺はみんなと別れてから、すぐには帰らずにホームセンターへ向かい手芸コーナーを探した。


「あった。これか」


俺が手に取ったのは衣類の黒染め。

今日の探索で俺の戦闘スタイルを再確認し、目立たない事に越した事は無いが、ブーツ以外全身黒で統一された俺の装備の中で新しく購入したマジック腹巻だけが白い。

そもそもユーズドなので真っ白ではないが白いことには変わりはない。

サイズを調整して鎧の下に装着していることもあるが、戦闘中にポーションを素早く取り出すために、鎧の上から装備する場合は白色が異常に目立つ。

目立つと認識される可能性が上がってしまうので、それに気がついた俺はマジック腹巻を真っ黒に染め上げることを思いついたのだ。

黒染めの箱に書かれている説明文を読んだが、水に溶いた黒染めに漬け込むだけと非常に簡単な物だったが、おっさんにも言われた様に間違っても口の部分は水の中に漬け込む訳にはいかないので、ゴム手袋も一緒に購入した。

家に帰ってすぐに準備を始め、ゴム手袋をして手に持った状態で腹巻の口に水が入らない様に固定して真っ黒な水の中に1時間程漬け込んでから、一緒に買っておいた色止めという物を使って仕上げをしてから取り出した。


「完璧だな」


取り出したマジック腹巻は完全に真っ黒なマジック腹巻に変わっていた。後は干すだけだ。

このままぶら下げると床が惨事になりそうなので入浴後、風呂場の中で衣類乾燥のスイッチを入れ朝まで放って置くことにした。

朝目が覚めると同時に即マジック腹巻を確認しに浴室へ向かった。


「おおっ!」


そこには真っ黒に彩られたマジック腹巻がしっかりと乾燥された状態でぶら下がっていた。

浴室の床が垂れた滴で真っ黒になっていたのでしっかりと洗い流しておいた。

黒いマジック腹巻を手に取って装着してみたが、昨日までとは全く違う。

完全に黒い。

これは昨日までのネコ型ロボットを彷彿させる腹巻ではなくなっている。

むしろ黒くなってカッコイイ。

恐らく10人いれば4人ぐらいはカッコいい、欲しいと言ってくれるレベルの腹巻に生まれ変わった。

俺の装備にも違和感無く溶け込む感じだし昨日まで漂っていたユーズド感が全くと言っていいほど無くなっている。

まさに俺によるオリジナルリメイクカスタマイズを経て新生したと言っても過言ではないだろう。

俺は新生黒いマジック腹巻を装着して意気揚々とみんなと合流した。


「どう思う?」

「何が?」

「いや、これだよ」

「………何?」

「いや、これだって」

「もしかして黒い腹巻を買い直したの?」

「いやあ、昨日帰ってから自分で染めたんだよ」

「えっ、自分で染めたの?海斗って結構マメね」

「でも、随分良くなったのです」

「黒の装備に違和感なくなったな」

「そうでしょう」

「まあ、元のが酷すぎたから、良かったんじゃない」

「ミク………」


やはり、俺の選択は間違っていなかった様だが、昨日までの腹巻の評価が低すぎないだろうか。

昨日もしっかり活躍してくれていたと思うのだが。

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