第439話 おばけ屋敷

初めてのお化け屋敷だが当然テレビとかでは観た事があるので大体のイメージはある。

妖怪の人形や装置が飛び出てきたりするはずなので落ち着いて進めば問題ないはずだ。


「暗いな……」


薄暗いというよりも真っ暗に近い。

進む方向が分かる様に通路沿いに所々灯りがついているものの光量は微々たるものだ。

暗い中をゆっくりと春香と並んで進んでいくが、暗いだけで特に何も起こらない。


「春香、何も起こらないんだけど、お化け屋敷ってこんな感じなの?」

「う〜ん、多分もう少ししたら何か出てくると思うけど」


春香と話していると肩を後ろからトントン叩かれたので、俺は後ろのお客さんかと思い振り向いた。


「どうかしました?」


そこには若い女の人が1人で立っていたが、俺が振り向いて声をかけた瞬間その女の人の首がポロッと落ちた。


「え?あ、ああああああああ〜」

「きゃああああ〜」


至って普通に見えた女の人の頭がなんの前触れもなく突然落ちたのだ。

衝撃以外の何者でも無い。

春香と俺は叫びながら、全速力でその場から逃げ出した。


「大丈夫ですか?」


今度は逃げ出した前方から男の人の声が聞こえて来た。


「ああ、びっくりしたけど大丈夫です」

「そうですか、それではまだ足りませんね」

「え?何がですか」


声の主が近づいて来たが、様子がおかしい。

妙にシルエットが小さい気がする。

暗闇の中を近づいて来るシルエットを良く見ていると頭が無い。

頭を手に持った男の人が近づいて来ていた。


「ぎゃああああ〜」

「きゃああああああ〜」


再び俺と春香は叫び声を上げながら男性の脇を抜けて奥へと走った。


「春香……。俺の思ってたお化け屋敷と何かイメージが違うんだけど」

「うん。怖すぎるよね。私もお化け屋敷とかは大丈夫な方だと思ってたけど、これは怖いよ」


妖怪とかなら作り物だと笑う自信もあったが、普通の人がお化けとして出て来るのがこんなに怖いとは思わなかった。

これ子供は絶対無理なやつだ。トラウマになりかねない。


「何か音がしない?」


春香が声をかけて来たので耳を澄ますと確かに何かの音がする。

ズルズル擦った様な音が前方の脇から聞こえてくる。

進んで行くとそこには、ダンジョンで足を掴まれた黒髪のグールを連想させる黒髪の着物を着た人が地面をズルズルとこちらに向かって来ていた。

不気味だがこれは大丈夫そうだ。

そう思った俺がバカだった。


「憎い……憎い……憎い。あああああああ〜」


突然目の前の人が四つん這いになったかと思うと奇声を上げて四肢を使い猛然とこちらにダッシュをかけて来たのだ。


「うあああああああああ〜」

「きゃあああああああ〜」


俺と春香は3度一目散に逃げ出した。

余りに怖かったのか、逃げている途中気がつくと春香が俺の手を握っており、普段で有れば、嬉しいとか恥ずかしいとかの感情が生まれるシーンだったと思うが、恐怖感が勝り逃げる事に頭と感情のリソースの大半が割かれてしまい、それどころではなかった。


「はぁ、はぁ。リアルホラーハウスってリアル過ぎないか?」

「あれってロボットか何かかな。四つん這いで走って来たよ?あんなの人間には無理だよね」


びびりながら出口を目指すが、進む先にはまたしても着物姿の女に人が立っている。

また4つ足で向かって来るのか?

そう思い身構えていると、こちらに向かって移動を始めたようだが今度は下半身がおかしい。

よく見ると下半身が蜘蛛の姿をしている。

見ている間に顔も化け物の姿に変化し4つ足どころか8つ足で迫って来た。


「あああああああ〜」

「きゃああああああ〜」


俺は4度春香と手を繋いだまま逃げ出したが、走っていくと先に出口の灯りが見えて来たのでそのまま外まで一気に走って出た。

人で攻めて来て最後に化け物を持って来るとは怖すぎる。

ダンジョンで慣れていると思ったが、ダンジョンよりも遥かに怖かった。

人為的に人を怖がらせる為に作ったホラーハウスは、ダンジョンを遥かに凌駕していた。


「怖かったな〜。今日1番怖かった」

「うん、これは1人では無理だよ。海斗と一緒じゃなきゃ絶対無理だったよ」


ラッターランドは、暫く来てないうちに凄い事になっていた。

絶叫マシーンで始まり、絶叫のホラーハウスで1日を終える事となったが、流石の春香もホラーハウスには衝撃を受けたようでラッターランドを出るまでずっと俺と手を繋いだままだった。

そこからラッターランドを出るまで俺の心臓の鼓動は、ヘブンズフォールラッターに乗っている時よりも激しく早く動いていた。

お化け屋敷効果により初めて繋いだ春香の手は少し小さめで思った以上に柔らかかった。

もうこれだけで今日ラッターランドに来た意味が十二分にあったと言い切れる。

ラッター様ありがとう。きっとラッターランドはこの為に存在していたに違いない。

刺激は強めだったが、春香と2人で周るテーマパークは小学3年生の時の遠足とは比較にならない程に楽しく印象的だった。

絶叫マシーンは当分乗りたくないが、お化け屋敷は機会が有れば春香とまた一緒に行ってみたい。

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