第308話 魅了

バルザードの斬撃でトレントの攻撃を防いでそのまま懐まで踏み入れるが、絶えず足元に蔦が絡まってこようとするので、短期決戦で臨む。

俺は懐からバルザードの斬撃を幹に向かって飛ばし、あいりさんも『アイアンボール』を至近距離から放ちビッグトレントの攻撃を退ける。

2人の攻撃により完全に無防備となったビッグトレントに対して


「シル、今だ。頼んだぞ!」

「はい、お任せください。『神の雷撃』」


シルの雷撃がビッグトレントに降り注ぎ、太い幹の部分が焼け焦げて真っ二つに割れてしまった。

さすがはシルだ。炎だろうが雷だろうが関係ない程の威力だ。

もう一体のビッグトレントは、俺達が倒したトレントとほぼ同時に焼失した。

ベルリアが露払いをして、炎を操る2人の攻撃で難なく倒せたようだ。


「みんな、後はドリュアスだけだ。一気に片をつけよう」


ドリュアスに向けて、俺とベルリアとあいりさんの3人が突っ込み、ミクとカオリンが後方からの攻撃で仕留めにかかる。

先程同様、足元と前方に蔦が生えて来て邪魔をする。

ミク達の炎弾も植物に遮られて本体にはダメージが届いていない。

ただドリュアス自身にそれ程攻撃手段がないのか、こちらにも特に被害は見当たらないのでこのまま押し切れば、特に問題なく終われるだろう。

更に攻撃の手を強めて5人で押し込むと、さすがに植物だけでは守りきれなくなったようで、緑の髪の女性が無防備な状態で現れたので、止めをさすべく更に踏み込んだ瞬間にドリュアスと目が合ってしまった。

目が合った瞬間、引き込まれる様な錯覚を覚えて手が止まってしまった。


「海斗、止まるなっ!」


斜め後ろからあいりさんの声が聞こえて来たので、ハッとなりそれに従う様にして一旦後ろに下がる。


「海斗、どうしたんだ。完全に仕留める事が出来るタイミングだったぞ」

「すいません。もう一度、俺が行きます」


自分でもどうして動きを止めてしまったのかよく分からないが次こそ仕留める。

再度、植物の障壁を排除してドリュアスに斬りかかろうとしたが、体が動かなかった。

目の前にいるのは、精霊の一種とは言え敵、モンスターの類である事は十分に理解している。

理解しているから今の今まで全力で倒しにかかっていた。そのはずなのにドリュアスに止めを刺そうとした瞬間なぜか身体が動かない。

このドリュアスの 目を 顔を 姿を 見た瞬間身体が動かない。

完全に人の姿をしているこの相手を手にかける事が出来ない。

俺には出来ない………


「海斗、どけ!何魅了されてるんだよ。ドリュアスの能力の魅了だ!」


今度は背後からルシェの声が聞こえて来た。

魅了?俺は魅了されたのか?

ルシェの言葉の意味を理解する事に、少しだけ時間を要したが、俺はその言葉に従い攻撃をやめて横に回避した。


「精霊風情が海斗を魅了なんかしてるんじゃないぞ『破滅の獄炎』」


ルシェの獄炎がドリュアスを包み込み一瞬にして灰に帰した。

倒す事が出来て良かったが、俺の中には言い表す事の難しい感情が残されてしまった。


「海斗、ガードが甘いんじゃないのか?あの程度の精霊に魅了されるとはどうなってるんだ!」

「いや、どうなってるって言われても、目を見た瞬間身体が動かなくなっちゃったんだ」

「普段から私やシルを見ているくせに、あんな緑の髪のやつなんかに。そんなに大人が良いのか?胸が大きい方が良いんだな?わたしだって………」


ルシェのお叱りはもっともだ。敵に魅了されて攻撃出来なくなるとは情けない。それに幼女よりは大人の女性の方が良いのも否定は出来ない。

胸も無いよりはあった方が……

いずれにしても、初めてかかってしまった精神系のスキルは強烈だった。

今後かからない様に注意して臨むしか無い。

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