第304話 親孝行

俺は今家族旅行に来ている。


「母さん、どこか行きたいところとかないの?」

「急にどうしたの。そうね〜行ってみたいのはイタリアかしら」

「ごめん、もうちょっと近いところでどこかないの?」

「そうね〜。ハワイとか?」

「ごめん。国内で行きたいところ無い?」

「国内だと温泉かな〜」


ミクに勧められて、その日のうちに母親に行きたい所を聞いてみたが、フランスでは無かったもののイタリアがあがった時にはどうしようかと思ってしまった。

俺がお金を出すからと家族旅行に誘うと2つ返事で隣県の温泉旅館に行く事になった。


「え〜海斗がお金を出してくれるの?なんて孝行息子なのかしら。お父さん泣いて喜ぶと思うわ」


父親が泣いて喜ぶ様は全く想像できないが、とりあえず母親が喜んでくれているようなのでよかった。

夜、父親の了承を得てからスマホで調べて温泉旅館を1泊2食付きで3名予約をした。

初めて自分で旅館の予約を行ったのでちょっと緊張してしまったが丁寧な応対をしてもらい問題なく取ることが出来た。

週末になり父親の運転で温泉宿まで向かったが、俺はいつも通りの格好だったが父親も母親も他所行きの格好で張り切っているようだった。

2時間程のドライブで目的の温泉宿についたが、ホテルダンジョンシティとは全く違い、和風の良い感じの旅館だ。


「海斗〜。本当にここを予約したの?お母さんお金あんまり持って来てないわよ。本当に大丈夫なの?」

「大丈夫だって。予約の時にしっかり料金も確認しといたから」

「そう、それなら安心ね。お母さんこんなに立派な所だと思ってなかったわ」


中に入り部屋に案内されると、純和風の客室でかなり広い。


「海斗、お前この部屋高かっただろう」

「あ〜、まあ安くは無いけど、大丈夫だって。日頃のお礼だよ、お礼」

「…………」


父親が無言になってしまった。ちょっと良い部屋を取りすぎて心配させてしまったらしいが、初めての事なので程度が分からずに奮発してしまった。

その後、俺は部屋で過ごし、両親は旅館の周囲を散策したりして時間を過ごしたが、しばらくして食事の時間を迎えた。


「海斗〜。美味しいわ〜。蟹よ蟹。しかも何この綺麗な料理。写真よ写真!」


出て来た懐石料理に母親のテンションが上がりっぱなしだ。


「父さん、どう?」

「うん。うまいな……」

「ビール飲む?」

「ああ」


会話が続かない……

別に父親の事が嫌いな訳では無いが高校生になってからまともに話したことが無い。

頑張って話しかけてみるが、短い返事が返ってくるだけで全く会話が続かない。


「お父さん、おいしいわね〜。海斗にこんなところ連れて来てもらえるなんて夢見たいね」

「ああ、そうだな」

「海斗、お父さんも本当に喜んでるわよ」

「そう……」


本当に喜んでいるのか?父親の言葉と表情からは読み取れない。


「海斗、それ食べないの?お母さんそれ好きなんだけど」

「ああ、よかったら食べてよ」

「ああ〜。幸せ〜。こんなにおいしい料理を食べさせてもらえるなんて海斗を産んでよかったわ〜」


料理と俺が同格の様な言い方に引っかかりを覚えるが、これだけ喜んでもらえて俺も連れて来た甲斐があったと言うものだ。

デザートまで食べるとお腹が一杯になってしまった。これからどうしようか、テレビでもみようかな。


「海斗、一緒に温泉行ってみるか」

「あ、ああいいよ」


突然父親が誘って来たので少し驚いたが、断る理由も無いので一緒に温泉に入る事になった。

風呂場に着くと大きめの内風呂と露天風呂まであり、さすがは温泉旅館と言う感じだ。

内風呂に入ってから折角なので寒さを我慢して露天風呂に駆け込んだ。


「ふ〜っ。は〜」


顔は冷たいが、その代わり余計に体があったまる感じがして気持ちがいい。

しばらくすると父親も露天風呂にやって来た。


「海斗、いい旅館だな」

「そうだね」

「お金は大丈夫か?足りなかったら父さんが出すぞ」

「だから大丈夫だって」

「本当だな」

「ああ、探索者になって結構稼いでるんだよ」

「そうか」


やはりお金の心配をかけていたらしい。まあ俺が稼いでる様にはあんまり見えないかもな。


「ありがとうな」

「う、うん、まあいつものお礼だから」


俺は突然の父さんからのお礼に面食らってしまった。

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