第177話 初詣
俺は今春香からのメールを読んでいる。
「海斗ごめんなさい。今病院です。昨日から熱が出てしまって、何とか今日中に下がらないかと病院に来てみましたが、今結果が出てインフルエンザでした。本当にごめんなさい。風邪なら無理してでも行けたけど、インフルエンザだとうつしてしまうので行けません。せっかく誘ってくれたのに本当にごめんなさい。また連絡します。」
おおっ。インフルエンザ・・・
春香は大丈夫かな。春香を心配する気持ちと、クリスマスイブの予定がキャンセルになったショックが混在してガクッと力が抜けてしまった。
経験した事の無い脱力感を感じながらどうしようもないので、ひとり家まで帰ることにした。
クリスマスイブの夜は本当にへこんだ。自分の間の悪さを嘆き、もしかしたら春香が来たくなくて仮病かもしれないとさえ考えてしまった。それでもやっぱり心配なので春香に1日1回はメールで体調を聞いたりしていた。病人に何度もメールするのも悪いと思って一応控えていた。
クリスマスイブにインフルエンザになったので、当然クリスマスもダメだった。
このまま今年も終わりだなと漠然と考えていると、春香から
「心配かけてごめんね。ようやく熱も下がりました。よかったら初詣に一緒に行きませんか?」
おおっ。春香からのメール、しかも初詣のお誘いだ。嫌われたわけじゃなかったらしい。本当によかった。
もちろん病気も治ってよかった。
「はい。大丈夫です。お願いします。」
とすぐに返信しておいた。
1月1日になり、待ち合わせ場所に行くと既に春香が来ていたが何と着物姿だった。
春香の着物姿を見るのは多分初めてだと思うが衝撃的だった。
夏の清楚なワンピースも素晴らしかったが、着物姿は非日常性が合わさって別格に素晴らしい。
「春香おはよう。あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いいたします。クリスマス本当にごめんね。直前まで何とか行けないかと思ってたら連絡が遅くなってしまって。」
「ああ、大丈夫、大丈夫。全く問題ないよ。それよりインフルエンザって大変だったね。」
「ここ何年もかかってなかったから、自分ではただの風邪だと思ってたんだけどね。」
まあ、クリスマスは残念だったけど、こうして初詣に春香と行けるなんで夢のようだ。
「それはそうと、着物姿初めてみた気がする。」
「どうかな。この振袖変じゃ無いかな。」
「いやいや、すごくいいと思います。いいです。」
「ありがとう。よかった。」
一緒にいると、むしろ普通の格好で来てしまった俺が浮いてしまいそうだが、紋付袴など持っているはずもないのでこればっかりは仕方がない。
歩いて行ける範囲では1番大きな神社に向かって歩き始めるが、ちらほら初詣に向かっていると思われる人達も見かける。
家族連れや、恋人と思しき人達も見かける。
俺も春香と歩いていると恋人に見えるだろうか?それともただの友達にしか見えないだろうか?
まあ恋人に見えたところで実際には違うのでちょっと虚しい。
いつもと違う着物姿の春香と横に並んで歩いているだけでドキドキして意識してしまう。
近過ぎず、遠過ぎずの距離感を意識しながら歩いて行く。
30分ほど歩くと目的の神社に到着したが、人で溢れている。
「春香、すごい人だな。俺いつもは混んでる時間を避けてたから、こんなに人がいるのは初めてだよ。」
「でも、いっぱい人がいると、初詣に来たっていう感じがして、お正月が来たっていう気になるよね。」
「そうかもしれないな、今までずっと寝正月だったから朝から初詣っていうのがなんか新鮮だな。」
人混みの中を進んでいくと神社の境内についたので賽銭を投げ込むことにした。普段は5円か10円なのだが春香が横にいるので見栄を張って100円を投げ入れてしまった。
今年こそ春香と付き合えますようにとしっかりお願いしておいたが、横を見ると春香がまだお参り中だったので終わるのを待ってから
「春香、結構長くお願いしてたみたいだけど何をお願いしたのかな?」
「まだ1年あるけど海斗と王華学院に行けますようにってお願いしたんだ。推薦だと今年受験だしね。」
「あっ。俺忘れてた。もう一度お願いしてこようかな。」
推薦だと今年テストか。煩悩が勝ってすっかり忘れてしまっていた。
今年こそもう一度春香に告白をしたいが、よく考えるとダメだった場合、同じ大学に行けても非常に気まずい。なかなか悩ましい選択だと思う。
まだ時間はあるのでしっかりと判断していきたい。
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