第168話 宮本愛理

私の名前は宮本愛理。

友達からは『あいり』と呼ばれることが多い。

私の家は宮本流という古武術の宗家をやっている。

私は今なぎなたを使っているが、物心ついた時から、剣術、弓術、体術などいろんな事を練習させられて来た。

子供の頃の我が家はそれほど裕福ではなく、昔ながらの家と道場があっただけだった。

子供は私一人だったが、特に継がなくても、そのうちなくなってしまうかなぐらいに思っていた。

だが私が小学生になった瞬間に事態は大きく急変した。

TVアニメ 剣姫千変万化が放送されるとすぐに空前の大ヒットとなり、劇中の登場人物たちが用いる古武術にもスポットが当たった。

たまたま、流派の名前が昔の剣豪と同じだった事と、娘の私が登場人物の1人に似ていると噂になり、爆発的に門下生が増えた。

アイドル的な扱いを受けたりもしたが、今だけだろうと子供心に楽観視していた。

ただ、父は商機を逃さなかった。

TV出演から始まって、[古武術エクササイズ 脂肪を斬ってダンシング]というDVDを発売するとこれが、なぜか大ヒットしてしまった。

お陰で私は、超人気古武術道場の跡取り娘として担ぎ出されてしまい、門下生からもアイドル的な扱いを受ける事となってしまった。

もともと、武術が嫌いだったわけではないので、高校生になるまで特に疑問もなくやってきたが、最近になってこのままでいいのかなと思い始めた。

限られた世界で、決められた道を歩むことに不満はなかったが、ちょっと他の世界ものぞいてみたかった。

普段学校と鍛錬があるので、出来ることは限られていたが、高校3年生の春に父に頼んでダンジョンに行くことを許可してもらった。最初父は反対していたが、武術の実践がモンスター相手に積めるから、絶対に将来の役に立つと説得して納得してもらった。


「お父さん、絶対レベルアップして門下生の人達の憧れとなれるよう頑張ります。」


父は心配して業物のなぎなたとマジックポーチを買ってくれた。自分で買えるものは限られるので本当に助かった。

それからは、基本ソロで潜るようになった。


「彼女1人?ちょっと危ないんじゃないかな?よかったら一緒に潜らない?」


しばらくすると女1人と言うのが目立ったのか、結構頻繁に他の探索者から声をかけられるようになった。


「いえ、1人で力試しをしているので結構です。」


基本断るようにしていたが、4階層でソロの壁にぶち当たってしまい、進めなくなってしまった。

1人では、なかなか進まなくなってしまったので仮パーティを初めて組んだ。

男性2名のグループに入れてもらい、探索は進むようになったが、メンバーの2人がそれぞれにプライベートで誘ってきたので


「探索に集中したいのでゴメンなさい。」


とそれぞれ断ると、ギスギスした空気が流れるようになり、すぐ脱退する運びとなった。

またソロに戻ると、進めなくなったので、仮パーティを組みながらなんとか探索を進めていたが、基本男性メンバーが多く、最初のパーティと同じような展開になって長くは続かなかった。

正直、もう無理かもしれないと心が折れそうになりながら、一縷の望みをかけてギルドイベントに参加をした。

最初は、いつものように男性メンバーが多く、誘われたりもしたが、最後の組み合わせで奇跡が起こった。

女性メンバー3人に男性メンバー1名のグループになれた。4人とも同年代のグループだったが、女性3人集まるのが初めてだったので自然とテンションは上がっていた。

非常に楽しい時間を過ごすことが出来、別れるのが惜しいと思っていたら、メンバーのミクからパーティのお誘いがあった。

どうやら、女性メンバーは私と同じ悩みを抱えていたらしく、すぐに3人で意気投合した。

当初3人パーティもありかと考えていたが、


「あいりさん。海斗も誘ってみようと思うんだけど、どう思いますか?」


海斗は、グループで唯一の男性メンバーだが、今までの探索者と違ってあまり下心がないように感じた。力は、他の日に組んだ探索者に比べると少し落ちるように感じたが、妙に正義感があり、少し鈍いようにも感じたものの、私たち3人には結構紳士的だったので


「まあ、いいんじゃないか。」


と答えた。

その後4人で正式にパーティを組むことになったが、ここから私の探索者としての活動は劇的に変化した。女性メンバーの3人はとても気が合ったが、1番私に変化を与えてくれたのは海斗だろう。

戦力としてはそこまで期待していなかったが、とにかく女性陣の盾となるべく、積極的に前衛で行動してどんどん踏破していった。何度か命も助けてもらい、シル様とルシェ様と言うかけがえのない存在との出会いもくれた。

海斗は年下で、異性としての魅力はあまり感じないが人間としては非常に尊敬している。

これからもこのパーティメンバーであればもっと先まで行ける気がする。

オープンキャンパスで海斗の彼女らしき女の子を見かけたが、凄く可愛い子だった。こんな可愛い子が彼女なんて、人の魅力は見かけではなく、中身なんだなと改めて海斗を見直してしまった。

K-12のリーダーはその弱さも含めて人間的魅力にあふれている。

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