第六章 終わりなき初恋を君に5
「おい……」
目が合った男はカメリアの方へと近付いてくる。
とっさにドロシアをかばうように自分の背中に隠すカメリアだったが、男が手を伸ばしたのはカメリアの隣にいた青年だった。
突然髪をつかまれた青年は、その痛みに小さく声を上げた。
「こいつ、変装してやがるぞ! この髪の色も色粉で染めたもんだ!」
青年の髪から離した男の手には茶色い粉が付いていた。
「何だと? なら、そいつが紅の騎士なのか?」
「そういや、女のくせに男の格好してるって聞いたな」
「ちょうど手間が省けたじゃねぇか」
男達は青年の周りへと集まっていく。
(変装って、どういうことだ?)
何故、青年は変装していたのか。
戸惑うカメリアに青年は目配せをした。
今のうちに逃げろということなのだろうが、そんなことが出来るはずがなかった。
(私は……)
カメリアはその場で静かに立ち上がった。
「……カメリア様?」
「私が隙を作る。その間にドロシアは逃げるんだ」
「そんな、カメリア様、なにを……」
小さな声でドロシアに告げると、カメリアは青年を取り囲む男達に向かって声を上げた。
「待て、その青年は関係ない」
男達は驚いたようにカメリアを見た。
そんな男達の視線を一身に浴びながらも、カメリアは言葉を続けた。
「私が」
「馬鹿、よせ!」
青年はカメリアが何を言おうとしているかに気付き、必死に止めようとした。
しかし、カメリアは力強い声で続けた。
「紅の騎士であるカメリア・ヴォルドだ」
カメリアからの告白を聞いた男達は驚いたように固まっていたが、互いに顔を見合わせながら笑みを浮かべるとカメリアの方へと近付いていく。
「話には聞いていたが、まさかあんたがそうだなんてな」
「着るものひとつで、また随分と化けるもんだ」
男達がカメリアへと近付いてくる。
それでもカメリアが引くことはなかった。
「カメリア様に近づかないで!」
カメリアの前に飛び出してきたのはドロシアだった。
「ドロシア、そこを退いてくれ」
「いいえ、退きません! 私だってカメリア様を守ります。守られてばかりじゃ駄目なんです!」
「お前に用はねぇんだよ」
男のひとりがドロシアをつき飛ばし、ドロシアは床に転がった。
「ドロシア!」
「おい、馬鹿野郎! 何やってるんだ!」
別の男がドロシアをつき飛ばした男を鋭い声でとがめた。
「そいつに手荒く扱ってるんじゃねぇ!」
「いや、だが」
「まぁ、いい。そっちのやつのことについてはあとで話してやる。先に騎士の方だ」
男達は再びカメリアに近づいてくる。
(私だけでなく、ドロシアにまでなにかするつもりか)
しかしカメリアには男達が迫っている。
(私ではドロシアを助けられない。誰か、ドロシアを助けてくれ……)
「カメリア様!」
ドロシアが叫ぶと同時に、壁が吹き飛んだ。
突然壁にあいた穴にその場にいた者達の視線が集まる。
そこから中へと入ってきたのはバルドだった。
「へぇ……」
バルドはカメリア達に目を向けたかと思うと、次に男達の方へと目をやった。
その目は普段のバルドからは想像出来ないほど、鋭くそして冷たいものだった。
「お前らか。ドロシアを攫ったのは」
足音を響かせながらバルドはドロシアに近付いていくと、素手でドロシアの腕を縛っていた縄を引き千切った。
「こいつをこんな目にあわせておいて、お前ら覚悟は出来てんだろうな?」
「ひるむな、たかが一人だ!」
その声とともに数人の男がバルドへと襲い掛かる。
しかし、バルドはそんな男達の姿を見て笑った。
「俺は機嫌がかなりわりぃんだ」
バルドは腰のベルトに付けているホルダーから何かを取り出し組み立てていくと、それは槍の柄に変化していく。
「だから……」
組み立てられた柄の先にバルドの手でおさめられたのは、短刀がその先についた斧。バルドの手の中に現われたのは、ハルバートと呼ばれる戦斧だった。
剣を抜いたところを見たことがないと言われているのは、バルドが騎士でありながらも剣ではなく、この斧を武器としているからだった。
自らの武器を手にしたバルドはそれを構え直すと男達を見据えた。
「後悔すんじゃねぇぞ!」
バルドが斧を振るうと同時に男達が吹き飛ばされた。
刃ではなく斧の面の部分が当たったとは言え、その威力はかなりのものだ。
目の前で仲間が飛ばされる場面を見た男達は、バルドを遠巻きに見ることしか出来なかった。
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