第三章 未知なるもの

第三章 未知なるもの1

 城下に広がる街は活気に満ち溢れており、人々の声があちらこちらで響き合っている。


 街の雰囲気に飲み込まれそうになりながらも人混みの中でロベルトの姿を探すカメリアは隣を歩くセロイスに目をやった。


「さっきからなにを見ているんだ。気になることでもあるのか?」

「いや、そういうわけではない」

「……まさか私にばかり探すのを任せるつもりじゃないだろうな?」


 このような場所でロベルトの名前を出すことはためらわれ、あえて名前は出さなかったカメリアだが、セロイスに意味は通じたようだ。


「すまない。そんなつもりはないが、少し珍しくてな」

「珍しいものはとくにないと思うが」


 カメリアからすれば、街は普段と同じにぎやかさでとくに変わったところもない。


「俺はあまり昼間の街を訪れたことはないからな。昼間だけでなく夜に街を訪れることもないせいか、ひどく新鮮に感じる」


 騎士が街に行くことは決して珍しくはないことだが、仕事が終わった後に飲み屋などに行くことが多いと聞く。


 仕事とは言え、こうしてカメリアのように昼間の街を歩いている騎士の方が珍しいだろう。


「しかし、これだけ人が多い中でよくひとりで探すことができるな」

「まぁ、連れて帰らないわけにはいかないからな」


 ロベルトは人の中に混ざることにひどく長けているようで、慣れているカメリアでもロベルトを見つけるのは一苦労だ。


(しかし、今日はやけに見られている気がする……)


 女性の騎士が珍しいからか。カメリアの姿は街でも目立つようで道行く人々、とくに女性達の視線がカメリアに集まってくる。


 普段ならば目立たないように上になにか羽織ってくるのだが、今日は朝の一件などもあったせいで、今のカメリアは制服のままだ。


 カメリアの格好は騎士達が来ている制服と基本の形こそ同じだが、紅の騎士という称号にふさわしく紅い生地で仕立てられており、セロイスの制服は蒼の騎士にふさわしく青い生地でつくられている。


 それだけでも目立つというのに、今日は隣にセロイスがいるせいか。道を歩いているだけで、普段以上の視線が向けられるのを感じる。


(セロイスの人気はすごいものだな)


 同じ年頃の女性の視線に気付いたカメリアがそちらに顔を向けると、カメリアと目が合った女性は一瞬驚いた顔をすると、即座に目を反らしてしまった。


(そうか。ここでも、私は……)


「どうかしたのか?」

「いや、なんでもない」


 思わず出そうになってしまうため息をどうにか押し留めてセロイスに答えた。


「ここからは行きそうな店を近いところから順に回っていく」

「目星はついているんだな」

「あぁ。行くぞ」


 ――品揃え豊富な手芸店、客でにぎわう大衆食堂、路地裏にある古本屋。


 ロベルトがよく行く店をすべて回ってみたが、そのどこにもロベルトの姿はなく、残す場所はあとひとつとなった。


「ここだな」

「ここは?」

「菓子屋だ」


 街の中心から少し離れた場所にある店の前にカメリアとロベルトの姿はあった。


 歴史を感じさせながらも、可愛らしい雰囲気のあるこの店は古くから続く菓子屋だ。


 店の中は道に面した窓越しに見てもわかるくらい女性客達でにぎわっていた。

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