第一章 戦いの合図は教会の鐘で2
「特におかしなものはないな」
あれから部屋中の確認をし終え、何もないことを確認し終えたカメリアはベッドに腰を降ろした。
(そもそも、どうしてこんなところに私はいるのかが問題だ……)
カメリアは自分の記憶をたどっていく。
昨日は普段ととくに変わったことは何もなかった。
いつものように仕事を終えて、屋敷に帰ってきた後は日課でもある鍛錬を屋敷の庭でおこない、その後は身体を清めてから夕食を食べて自分の部屋に戻った。
(その後は……)
しかし、夕食を終えて自分の部屋に戻ってから記憶がどういうわけかカメリアからは抜け落ちている。そうなると、事が起きたのは夕食が終わってからということになる。
「でも、どうしてこんな部屋にいるんだ……?」
何の拘束もされずにベッドに眠らされていたことから、カメリアを傷つける意図は恐らくないのだろう。そのような意図があるならば、カメリアが眠っている間になにかされているはずだ。
誘拐ということも考えられるが、カメリアが眠らされていた部屋は高価な家具が置かれており、攫ってきた人間を閉じ込めておくような部屋ではない。
むしろ客をもてなすための部屋といった方が近いだろう。
だとすれば、カメリアをこの部屋まで連れてきた人物は一体誰なのか。
(それに一体なにが目的なんだ?)
そんなことを考えていたカメリアは部屋に自分以外の気配があることに気付いた。
気配のする方へと視線を向ければ、そこには浴室へと通じるドアがあった。
カメリアは先程浴室の扉を開けて何もないことを確認していたが、その時には人の気配などまったく感じなかった。
(まさか、ずっと気配を消して隠れていたというのか……!?)
カメリアはとっさに腰に手を伸ばすが、そこにあるはずの剣はない。
普段は剣をそばに置いて眠っているが、十六の娘がするようなことではなく、このようなベッドのそばに剣が置かれているはずもない。
武器になりそうなものはないかと探していたカメリアはサイドテーブルに置かれていた燭台に目をとめた。
「なにもないよりはマシだ……」
カメリアは燭台を手にすると、緊張のせいか冷える素足をゆっくりと床の上を滑らせるようにして足音と気配を消して、ゆっくりと浴室へつながるドアへと近付いていく。
(落ち着くんだ……相手は、恐らくひとりだ)
このような部屋の中で気配をここまで完全に消すとなると、相手は単独である可能性が非常に高い。相手が複数の場合、ここまで完全に気配を消すことはできないはずだ。
しかし相手のことがなにもわからない状態で対峙しなければならないのは痛手だった。それもカメリアにとっては慣れない部屋で、手にしている武器は燭台とひどく心もとない。地の利も武器も恐らく相手の方が上と考えていいだろう。
相手のことがわからず、自分が不利な場合、勝敗を決めるのは自分のタイミングを取った方。
つまり相手の呼吸にまどわされることなく、いかに自分の呼吸を正確に計れるかにすべてがかかってくる。
扉の向こう側にいる相手もそのことを理解しているのか。一向に動く気配はない。カメリアが扉越しいることは既にわかっているはずだ。
(だったら……)
カメリアは呼吸を整えると、ドアノブへと手を伸ばした。
自分の行動を相手に読まれていることを理解した上で、それを逆手に取っての行動だったのだが、内側から扉が勢いよく開くのは同時のことだった。
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