蛇 - 意訳

我邪あ掛軸様怒可か否か

(私はあの掛け軸のように怒るべきか、そうではないのか)

我邪あ書物様狡可か否か

(私はあの書き物のように狡猾であるべきか、そうではないのか)

其話前我邪は涅か

(そう言う前に、私は暗い水の底に沈んだ泥のようなものだ)

削殺ぐ身には毒牙ある

(肉を削ぎ、身を注ぐことしか出来ない私には毒牙がある)

たばこ


然我邪軒肉だよ

(そうだ、私は肉屋である)

我邪稼業傲號滔滔と(一)代(二)代

(この稼業は両親から受け継ぎ、まさに業そのものである)

橙向羨望が、我邪はく痴

(猿は羨ましく思っていたが、私は何も知らない愚か者だった)

我邪何知らず

(そう、私は何も知らなかった)

お前も知らず

(それは猿、お前にも言えることだ)



なあ今は 今だけは休もう

深く煙を入れ込んでさ

目を瞑ろう 瞼の奥では

蓮の葉の上に居る


お前は元気にしているかなあ

また泣かされてはいないかな

いつもいつも考えて

いつもいつも


我邪前閊声笑ゲ手

(私は以前、声が吃り笑うことさえも難しかった)

我邪全學交は悪辨下愚

(学校や交際でさえ苦痛そのものだった)

然猿前拳樂初栄 ナア盟友

(しかし、猿の前だと拳を交えて心通じ合うことができた。なあ、盟友)

彼奴把我邪我本真を魅射る

(彼は私の本心を覗き、私はその姿に魅了された)


前が頭が葉っぱ壊駄?口吐ロウト答と滔と問うと滔と

(頭がいよいよ壊れたのか、口からは吃ることなく言葉が流れ出る)

こうも公に「コウ!」と考に通揄言之葉似語縷縷縷縷

(こうも考深に至らない言葉を、ただただ語り続ける)


「我邪仕事全須駆亜手人言至愛我故駆

(私は全ての仕事を須く実行する。それは私の雇主への愛が故である)

 肉我切縷駆亜手人言至世通今ニ逢イ御愛ヲ

(雇主のために肉を切り続ける。今に彼の愛に世界は気づくのであろう)

 我邪仕事全須駆絶ニ奉ス敵屠ル

(私は仕事を須く全うする。雇主の敵となるものは容赦なく手を下す)

 肉我切縷駆手腕五月ス事ナキ下愚亜手人ガ為

(雇主のため、肉を切り続けている。彼の手を煩わせることはないように)

 海ヨ山ヨ風ヨ島ヨ鳥ヨ人ヨ生ケルモノヨ

(海よ、山よ、風よ、島よ、鳥よ、人よ、生けるものよ)

 我邪知全繋糸亜手人数多猛駄獣語

(私はそれらが全て糸のようなもので繋がっていると知っている。雇主はそれらを猛々しく総括する)

 平穏且殷賑且饗宴且報イ

(平穏であり、殷賑であり、それゆえ饗宴は続き、いつかは報いを受ける)

 復平穏且殷賑且饗宴且報イ

(そしてそれは繰り返される)」

「我邪仕事全須駆亜手人言至愛我故駆

(私は全ての仕事を須く全うする。それは雇主への愛が故なのである)

 我邪仕事能蓮人有難故全総

(私はありがたく、あの異国の匂いのする女を護衛する仕事を全うする)

 蓮人触レザル亜手人之奥臆慎ミ守リシ去月之宴迄片時

(来る年の宴までいついかなる時でも、雇主のためにも、女は誰にも触れさせない)

 触楽悲喜愛恋社世

(触感、楽しみ、悲しみ、喜び、恋や愛、社会や世界)

 涙語レ汗ヲ流セ嗚咽響キ悦楽生リ

(涙を、汗を流せ。嗚咽を吐いて悦楽に浸れ)

 反吐ニ塗レ着飾レ皮膚ニ潜リ臓腑ヲ浸セ!」

(反吐に塗れ、それを飼い慣らし、皮膚の内側にそれを注ぎ、臓物を浸してしまえ!)



何かが腐る音と

蛇の干からびた屍骸と

工場を囲う鉄格子と

黒い煙を喰う子


お前は、お前は元気にしてるなあ!

ちょっと火を貸してくれ、そうだ、引けよ。


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