第71話 光の柱
(何が起きている、んだ……!?)
視界は全て光によって埋め尽くされ、ダイチには何が起きたのかわからないが、恐れていたことが起きてしまったことだけは確信する。
この光が何もかもを飲み込んでいく。あのシュヴァリエやジェアン・リトス、彼らの援軍で駆けつけてきた他のマシンノイドさえもまとめて消し飛ばし、軌道エレベーターさえもえぐる。
皮肉なことにそれは南軍やレジスタンスに進軍を決意させた流星に似た光とまったく同じであった。
地上では軌道エレベーターの山脈を防衛するクリュメゾン軍、そこを攻め立てる東軍という戦いの中に、ユリーシャとデランはレジスタンスの一番隊を率いて、突っ切っていた。
そこへけたたましい雷の轟音が鳴り響き、空を見上げた。
「あれはなんだ……!?」
「ケラウノス……いや、あれとはまた違う光ね……!」
実際に何度もジュピターの一族が神の雷を振るう場面を目の当たりにしたことがある二人だからこそわかる。
あれはケラウノスとは違うチカラ。もっと強力でもっと危険な光。それが軌道エレベーターを斬り裂いて突き進む。
「一体あの光は……?」
「さあな、何なのかわからねえ。敵の新兵器か?」
「いや、あんな光を放つ新兵器など情報に入っていないわ。まるで流れ星みたいな……」
ユリーシャはもう一度、魅入られるようにその光を見る。
「流れ星?」
「夜空の星が燃えて光ることをそう言うそうよ。私は見たことないんだけど」
「流れ星を見たことない……」
デランは少し驚くが、すぐに察する。木星の空にはあの分厚い雲海が常にあって、夜空に輝く満天の星を見上げることはない。ゆえに流れ星というものを見たことが無い。
地球や金星では空を見上げれば当たり前のように見える光景だというのに。
だが、それをデランは口にしなかった。
当たり前のように何でも手に入れて、欲深で図々しく、他の星を侵略して当然。それが木星に来る前のデランの木星人の印象であった。それが実際木星にやってきて、ユリーシャをはじめとした木星人に接していくうちに、その印象は大きく変わった。
そして、今知った流れ星を見ることが出来ない木星人達に言い知れぬ親近感がわいてきた。それは、自分達が見れるものが木星人達には見れない、優越感といってもよかった。
たかが流れ星。だけど、そういったものが一つだけあるでも大分心境は違った。
「流れ星に願い事を掛けると叶うそうよ」
「ああ、そうか……」
そういえば、エインヘリアルでも女子達がそんなことを話題にしていたことを思い出す。やはり、ユリーシャはそういう女性達に似ている。
「あんたは何を願うんだ?」
「決まっているわ――勝利よ!」
ユリーシャはそう答えて剣を振るい、行く手を遮る軍人を倒す。
「勝利ね。あんたらしいな!」
デランも応じて、斬り伏せる。
さらにその行く手にはソルダの軍勢が立ちはだかる。
「そのために、私達は道を切り開く!」
ユリーシャはそう言うと、背後にこちらのソルダで立つ。
剣を振るい、ソルダと共に敵のソルダの軍勢へ斬りかかる。
カキィィィィン!!
ユリーシャの斬撃が閃き、ソルダを両断する。
(やるじゃねえか!)
その様を見て、デランはニヤリと笑う。
「俺も負けていられねえぜ!!」
振り向きざまにソルダを斬り落とす。
いける。戦える。
先の戦いでどうしようもないほどに強大に見えた木星人達のマシンノイドやケラウノスであったが、それは量産機のソルダや配備兵にはあてはまらない。
能力によって、腕が伸びたり、剣を伸ばしたり、銃弾が大きくなったりしたことはあったが、どれも練度は高いとは言えず、容易に対処できるものであった。
「一つ! 二つ! みぃぃぃつッ!!」
デランはカウントする度に、軍人やソルダを斬り伏せていく。
共に最前線を行くユリーシャと背中合わせになって突き進む。
「頼もしいわね。金星人はみんなそんなにも強いものなの?」
「ああ、特にあんたみたいな女がいっぱいいてな」
「一度行ってみたくなったわ、フフ」
ユリーシャは微笑み、敵を斬り伏せる。
「だったら、流れ星に願ってみるか?」
「いいえ、その必要は無いでしょう」
デランの問いかけにそう答え、ユリーシャとひた走る。
「隊長に続け!」
「おおう!」
他の隊員達もそのひたむきさに影響され、全力で敵をなぎ倒しながら追いかける。
「もうすぐ、軌道エレベーターに着くわ!」
「一番乗りか! いや、一番はダイチ達か!」
「彼等も無事だといいのだけど」
「あいつらなら心配いらねえだろ。団長とやり合っているとこ見てただろ」
「ええ、彼は団長に能力を使わせた。団長に能力を使わせることができたのは私も何度も立ち合って、たった一度だけだったから凄いことよ」
「ああ、あのヒトはそれだけの技量があるな。俺もやってみたいものだぜ」
「それはこの戦いが終わったら、ね」
「そいつは楽しみだ」
軌道エレベーターの直下に近づくにつれて光の轟音は大きくなっていく。
「あの光、本当に流れ星なのか?」
「というと?」
「いや、俺が知っている流れ星はすぐ消えるものなんだ。だけど、あれはずっと光っているし、滅茶苦茶力強い」
デランが知っているどのチカラよりも力強くて、何もかも飲み込むほどの危うさを感じさせる。
ガシャン
そこを死守すべくクリュメゾンの守備隊が集まってくる。
「シュヴァリエ四機、ジェアン・リトス一機……! 散会しているとはいえ、予想していたものより少ないわね!」
「よっぽど混乱してるんだろ。あのデカいやつだけは倒しがいがあるみたいだがよ!」
デランはさっそくジェアン・リトスへ斬りかかる。
ガキィィィィィン!!
しかし、今までマシンノイドを斬り倒してきたその刃は装甲を通すことが出来ず、弾かれる。
「やるな!」
デランは飛び上がって後退する。
「ジェアン・リトスは師団長クラスが乗る機体よ。そう簡単には突破できないわ」
「だけど、突破するっきゃねえだろ!」
「ええ!」
ユリーシャとデランは剣を構える。
ガシャン!
ジェアン・リトスは反撃へ動き出す。
プラズマライフルを構える。しかし、撃たれる前にユリーシャとデランは動く。
まずユリーシャが足を斬り込む。
足を斬るとまでいかなかったが、衝撃でよろめく。
「でぃぃぃぃぃぃやッ!!」
デランは飛び上がって、プラズマライフルの銃身を斬り捨てる。
ジェアン・リトスの操者は思わぬ攻撃に面を食らったが、さすがに師団長クラスが駆る機体を任されているだけあって、対応は早かった。
斬り捨てらたプラズマライフルをすぐさま放り投げて、デランへ投げつける。
「ぐ……!」
それをまともに受けたデランは地上へ叩きつけられる。
「おおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
デランは気合を入れて、再びジェアン・リトスへ立ち向かう。
その左腕を銀色に輝く。
「研ぎ澄ませ、メッサァァァァァァッ!」
銀色の手刀を一閃させて、ジェアン・リトスの装甲を斬り裂く。
「あの攻撃に続け!」
その勢いに負けまいとユリーシャは号令をかける。
「撃て! 撃て撃て撃てぇぇぇッ!!」
それを受けて後方に控えていた隊員達がマシンガンやレーザーガンで集中砲火する。
バァァァァァァァァン!!
その弾幕を文字通り一身に受けてジェアン・リトスは倒れ伏す。
「やったぜッ!」
「あなたのおかげよ!」
デランとユリーシャはハイタッチをかわす。
まさか師団長機であるジェアン・リトスが倒されるとは思っていなかったクリュメゾン軍は動揺する。
「このまま一気に攻め込むわよ!」
「「「おおおぉぉぉッ!!」」」
その逆にユリーシャ達レジスタンスの士気は天井知らずに上がる。
ゴォォォォォォン!!
その時、軌道エレベーターが連なる空に燦然と輝く光が轟音を立て、その軌道エレベーターすらも飲み込んで一層輝きを増す。
「何が起きたんだ……!?」
デランやユリーシャは空を見上げた。
それは他の隊員やクリュメゾン軍や東軍、南軍も同じであった。軌道エレベーターを飲み込み、全てを破壊して直進する。
今は雲海を突き抜けてさらなる空へ向かっていってるが、もしそれが地上へ、自分達へ向けられたのなら。それはまるで神の威光を目の当たりにしているかのようだった。
(新兵器……? ケラウノス……? いや、そんなもんじゃねえ、もっと何かとんでもないなにかだ……!)
デランもそれを見上げて畏怖せざるを得なかった。
ピコン!
そこへイクミからの着信が来る。
『デランはん、今何してはる?』
「イクミか。こんな時に何の用だ?」
『デランはん、レジスタンスの連中と一緒におるやろ?』
「それがどうした?」
『仲介してくれんか? 話したい奴がおるんや』
「話したい奴?」
『出来れば隊長とか偉い人とかやと助かるんやけどな』
要領得ない発言だったが、デランはユリーシャに目配せする。
「私がそのレジスタンスの一番隊隊長だけど」
ユリーシャを名乗りを上げると、イクミはニヤリと笑みを浮かべて新しい通話ウィンドウを開ける。
『俺は宇宙海賊ボスランボのキャプテン・ザイアスだ』
「宇宙海賊……?」
ユリーシャは突然現れた男を不審に思う。ただ、アステロイドベルトに現れると言われている宇宙海賊の噂は聞いたことがあり、とその噂の真偽はともかくその男の風貌から只者ではないことだけは感じ取った。
「噂に聞いたことあるけど、その宇宙海賊が何の用で?」
『あんたらの団長に話をつけたい。――南のメランノトス軍と一時協力体制に入る』
「……なんですって?」
ユリーシャはザイアスが言ったことをすぐに理解できなかった。
『領主ツァニスの了承は得られている。それじゃ伝わらないかあ?』
その発言のせいで、ますます信じられなくなってこの男は大ぼら吹きなのでは、と思ってしまった。
「……話を通すか」
ユリーシャの返答を受けて、ザイアスは艦橋から雲海のその下から立ち昇っていく光の柱を見る。
「キャプテン、あれは一体なんですか?」
通信士をしているリピートは冷や汗をかきながら訊く。
「わからんなあ……強いて言うなら、極大レーザー兵器ってとこかあ。いずれにしてもハンパな威力じゃない」
「ハンパじゃないと言いますと?」
「この船に直撃したら撃沈する」
「ひえ!?」
ザイアスの発言に同じ通信士の少女リィータは悲鳴を上げる。、
「ちょ、ちょちょちょ、直撃したら、撃沈って!? 大丈夫なんですか!?」
「リィータちゃん、落ち着いて。キャプテンを信じるんだよ」
「ま、なるようにしかならねえな」
ザイアスの一言のせいでリィータは全然安心できず、席でオロオロする。
「どうにも水星人は落ち着きがなくていかんな」
リピートはぼやく。
ドゴォォォォォォォォォン!!
すると、光に変化が起きた。
「光が弱くなっていってる。熱量が半分になっている」
「エネルギー切れか……ともかく、これで脅威は無くなったな」
ザイアスがそう言うと、光の柱は先細りしていき、やがて消えてしまう。
「消えましたね」
リィータはホッと一息つく。
「だが、状況は変わる」
艦橋のディスプレイにコールの文字が浮き出る。
「レジスタンス団長ギルキス・タイタミアからです」
リィータが相手の名前を告げる。
「よし、ツァニスにも繋げろ」
「は、はい!」
ザイアスの指示を受けて、リィータはチャンネルを繋げる。
ここに、アステロイドベルトの宇宙海賊キャプテン・ザイアス、南国の領主ツァニス・ダイクリア、レジスタンスの団長ギルキス・ダイタミア、戦争の真っ最中という刻(とき)に奇妙な取り合わせの三人による会談が開かれる。
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