第43話 金星コンフリクト

   第一試合

 ハイスアウゲン 対 ミッテル


 機体を呼ばれるやいなや、エリスはすぐにハイスアウゲンに乗り込む。


「待ちくたびれたわ」


 最初の試合からずっと他の機体の戦いぶりを見せつけられて、うずうずしていたのだ。


「今朝みたところ、向こうさんも気合十分みたいやから注意せえや」

「もちろん、それでも勝つのは私よ」


 エリスは力強く答え、ハイスアウゲンと共に格納庫を出る。

 スタディオンには既にミケエラの駆るミッテルが堂々と待っていた。


『今朝ぶりだね』


 ミケエラは今朝と同じように陽気に声をかけてくる。


『今日は負けないからね、ちゃんと対策もしてきたから』

「それは楽しみね」


 エリスは対策のことなんか気にもせず、笑顔で返す。

 何が来ても、必ず勝つ。そういう気力にエリスは満ちていた。


――カウントスタート! 3(ドライ)! 2(ツヴァイ)! 1(アインス)! ファイッ!


 開始のゴングが鳴り、ハイスアウゲンは動く。

 先手必勝! と、言わんばかりの踏み込みにミッテルは付き合いきれないと言わんばかりに後方に飛ぶ。


バキュン! バキュン!


 そして、安全圏に入ったところで得物のビームライフルで連射してくる。

 ハイスアウゲンはこの直撃をもらわないよう、かわす。そのせいでミッテルとは距離を詰められずにいた。


『対策ということはこのことやったんやな』

『確かにあの中距離用ライフルに対抗できるアウゲンにはないな』

「だったら、ブーストオン!」


 エリスは思い切って、ブーストし、出力を上げる。


「多少のダメージを覚悟で、突っ込む!」


 ハイスアウゲンはエリスの意志に呼応して、一気に突っ込む。


『そう来ると思ったわ!』


 ミケエラはミサイルポッドを出して、連射する。

 しかし、エリスは止まらない。ミサイルをかいくぐりながら前進しつづける。

 ミケエラもそれがわかっているのか、ミサイルを床に打ち付ける。けたたましい爆音とともに、砂塵が巻き上がる。


「目眩まし!」

『落ち着け! 敵はこの砂塵に乗じて仕掛けて来るに違いない!』

「わかってるわよ、どんな攻撃が来たって対処してやるわ!!」


 仕掛けてきたらカウンターを撃ち込んでやる! そういう構えでハイスアウゲンは立ち尽くす。

 しかし、ミッテルは一切仕掛けてくること無く、砂塵は晴れる。

 一体、何故この機に乗じて仕掛けてこなかったのか。

 まあいいや、殴ればいいだけのことだし、とエリスが思った時、その疑問も砂塵とともに晴れた。


「なッ!?」


 正しくは、新しい疑問があがってきて塗りつぶされたと言っていい。


『ミッテルはどこへ!?』


 ミッテルの姿がどこにもない。センサーの方にも反応がない。


『消滅したのか? だったら、エリスの勝利のはずじゃ!?』

「いえ、まだよ。あいつはまだ仕掛けてくる!」

『せやけど、センサーに反応がないんやで』

「センサーがなくても、わかるのよ!」


 エリスは構える。


『肌で感じるようだな、機体と身体が一体化しはじめているのか。その感覚が一番大事だ』

「……どこにいるのか、わからない。けど、あいつは照準を私に向けている。

――必ず撃ってくるって気配がする!」

『ならば、撃たせろ! 必ずその時に姿を現す!』

「ええッ!」


 ハイスアウゲンは立ち尽くす。

 来るなら来い。と言わんばかりの構えだ。

 そこから数秒……数分、数時間続くのではないかと思われる緊張感の中、砂柱が立った。


『砂の下に隠れていたのか!』

『さっきのミサイルで砂を巻き上げたのはその布石か!』


 ミサイルで砂を巻き上げ、その巻き上げた砂の下に隠れ潜む。センサーに探知されないよう、駆動を消してまで機を伺っていた。


「関係あるかあああッ!!」


 エリスが吠え、ハイスアウゲンはミッテルの方へ飛ぶ。


『前方へ全火力を集中する。これで私の勝ちだよッ!』


 ビームライフルとミサイル。さらに内蔵されているマシンガン、ミッテルに搭載されている可能な限りの砲撃という砲撃をハイスアウゲンへと向ける。


「ブーストオン!」


 ハイスアウゲンは背中のパックに入っていたビームブラスターを撃つ。

 このビームブラスターは、ハイスアウゲンのブーストと連動しており、

 威力は通常の三倍に引き上がっている。それはミッテルの全砲撃をも凌ぐ破壊力を生み出す。

 ビームライフルを焼き払い、ミサイルを撃ち落とし、マシンガンの弾を塵も残さず消滅させる。それほどまでに圧倒的な一射であった。


『な、なんて、バカげた攻撃……!』


 ミケエラはかろうじてかわす。しかし、ビームブラスターの衝撃によって砂が巻き上がり、機体の周囲に砂煙が立ちこめる。


『なるほど、今度は私がやられる番ね』


 ミッテルはビームライフルを構える。


『とはいっても――』


 ミケエラにはなんとなく確信できていた。

 砂煙や爆煙、いや視界を遮るどんなものがあっても、奴は必ず正面からやってくると。


「ブーストオン!」


 その声と共に、ハイスアウゲンは出現する。

 あたかも、瞬間移動で現れたかのような驚異的な速度で。


ガシャン!


 殴られ、蹴られた。

 ミッテルの装甲がひしゃげて歪む。

 ヒトの身体で例えるなら、アバラの骨が半分以上折られたぐらいの衝撃だし、ここから立て直すのは不可能だろう。


『ああ、やられたわ』


 ミケエラは機体とともに倒れ伏して、降参する。


――勝者、ハイスアウゲン!


『私は不意をついたけど、あんたは正面からきた。その差かな』

「そんな差なんてないわよ。あったのは、単なる実力の差でしょ」

『そうだね、アハハハ。飛び道具と不意打ちには自信あったんだけどね』

「もうちょっと実力をつけてからそういう自信を持った方がいいんじゃないの?」

『言うねえ。だけど、まあごもっともだよ。もうちょっと聖騎士様ぐらいの実力をつけてから出直しすよ』

「そのときはまた戦いましょうか?」


 エリスが提案すると、ミケエラは笑う。


『それは……ちょっと嫌かな』




「これで残り四機か……」


 二回戦は終わり、残った機体を数える。


「残り四機になったところで、ルールは変わる」

「ルールは変わるとどうなりはるんや?」

「次は決勝戦で、四機で一斉に戦うバトルロイヤルだ。最後に勝ち残った奴が優勝だ」

「……マジでっか?」


 ラウゼンはそう告げると、イクミに緊張が走る。


「最後に勝ち残った奴が優勝、ね……」

「あんたでも緊張するの?」


 マイナが訊くと、エリスはそっぽ向く。


「まさか、面白くなってきたわ」

「ま、そうでしょうね」

「決勝戦の前に整備の為のインターバルがある。そのためにメシをくっとけ」


 ラウゼンにそう言われて、エリス達は再び食堂へ入る。

 食堂の方では、負けたマイスター達がお通夜のようになっているところもあるが、どの機体が優勝するかで大盛り上がりしていた。


「優勝はやっぱりアライスタんとこのノイヘリヤだよ!」「いや、あのノヴァリーゼとかいう奴も侮りがたいぜ!」「あんなの邪道よ! 木星野郎よ!」「やっぱ優勝はノイヘリヤだよ!」


 みな思い思いの声がけたたましく聞こえる。


「本命はやっぱラルリスはんのノイヘリヤみたいやな。エリスは大穴ちゅうわけや」

「大穴ってなんですか?」

「当たったら凄いってことや」

「はあ……」

「別になんでもいいわよ」


 エリスはそそくさとキンセイ和牛ステーキを頬張る。


「エリスはマイペースやな」

「憧れます」

「いや、エリスだけやめておいた方がええわ」


 イクミにラミは注意する。


「でも、エリスさんと師匠はとても仲が良くなりましたよね。まるで親娘みたいで羨ましいです」

「じいさんと親娘って……冗談やめてよ、あんたの方が娘って感じじゃない」

「い、いえいえ、そんな私なんて……ラウゼン師匠の弟子ってだけで」

「ふうん……ところで、あのじいさんって家族とかいないわけ」

「はあ……そういう話はしたことがないのですが、家族がいるという話は聞いたことはありませんね」

「そのあたりはプライベートなところやし、むやみにきくもんでもないやろ」

「まあ、そうね……」


 エリスはそう言いつつ、ステーキを口にする。


「まあ、そんなじいさんのためにも優勝してやらんとな」

「別に私はじいさんのために戦ってるわけじゃないわよ。自分の為、楽しいから。

まあ、じいさんに義手を造ってもらった借りもあるし、それもちょっと含まれるかな」

「――戦う理由なんてそのぐらいで十分すぎるわね」


 いきなりラルリスがやってきて、エリスの相席になる。


「調子はどう?」

「絶好調よ。このまま優勝できるわ」

「それは楽しみね、フフ」

「そんな確認のために来たわけ?」

「それだけじゃないわ。あのバライってやつのことよ」


 エリスはステーキを切るナイフの手を止める。


「別に……強い奴が出てきても叩き潰すだけだから」

「相変わらずの割り切りね……ただ私はそうはいかない」

「あんたの恨みつらみ、わからないでもないけど、それをフェストに持ち込まれたんじゃノイヘリヤの方もたまったもんじゃないでしょ」

「大きなお世話よ。金星の機体なんだから金星人の気持ちはよくわかっているわ。

――私の両親は木星人に殺された。だからといって木星人に殺したいわけじゃない。けど、こんな土足で踏み荒らしてくるような真似は許せないのよ!」


 ラルリスは持ってきたリゾットを口にする。


「そんなこと、私に言われてもどうもしないわ。そんな憎悪があるんだったら戦いのときにぶつければいいだけの話じゃない。こんなところにまで持ち込まないで」

 エリスはそんなラルリスへ睨み返す。

「まったくもってそのとおりですよ」

「――!」


 しれっと、バライがエリスの隣に座ってきた。


「バライ……いきなり、来るのね」

「この方がサプライズになったでしょう?」


 バライはフフッと笑う。


「この場で首を斬って出場辞退か……たしかに面白いサプライズだね」


 殺気立たせてきたラルリスがくってかかる。


「そんなことをしたら永遠にボクに勝つことはできなくなりますよ」

「そうね、勝つために戦いの舞台に立たせなくちゃならないもの。舞台の外で退場させるなんて言語同断よ」

「エリス、お前はその男の肩を持つのか?」

「別にそうじゃないけど、こんな場外乱闘で優勝をかすめとっても面白くないだけよ」


 ラルリスは腰に帯刀した剣の柄に手をかける。


「………………」


 今この場で斬り合いが始まるのか。

 食堂のその一帯だけに緊張感が漂う。


「……バライ、といったな。貴様に訊きたいことがある」

「なんでしょうか? 答えられない範囲で答えますが」

「何故、あんな機体を造った?」

「マイスターに向けてなら愚問の問いかけですね

――誰よりも強いマシンノイドを造り出すために決まってるじゃないですか」


 バライは物腰柔らかく、しかしその中にも力強さを込めて答える。


「ああ、じいさんでもそう答えるわね」

「アライスタ女史もそうね」


 ラルリスも納得する。


「でも問題なのは、どうして木星の技術を使ったかってところよ」

「強くなるためだったらどんな星の技術を使って利用すればいいだけの話じゃないですか。何故そこまで目くじら立てるのか理解できませんね」

「貴様……!」


 カァッと、鞘から刀身が引き抜かれる。


「待ちなさい。だから場外乱闘はやめなさいってば!」


 そこへエリスが割って入る。


「どうしてもって言うんなら、私が相手になるわ!

――むしろ、そっちの方が私の望むところだけど!」


 エリスは不敵に笑う。


「ストーップ! エリス、あんたがそんな調子になったら余計乱闘騒ぎになるからやめなはれ!」


 イクミまで割って入る。さすがにこれ以上ヒトを巻き込む訳にはいかないということなのか、ラルリスは剣を鞘に収める。


「確か、あなたは元聖騎士でしたね?」


 落ち着いたところで、バライはラルリスに訊く。


「騎士というのは様式と伝統を重んじると聞きますが、それは単なる時代に取り残された頑固者の理屈ですよ」

「――!」

「いや、そんな騎士を重用するこの星そのものがそうなのでしょうね」

「貴様、言うにことかいて!」


 ラルリスは再び剣の柄に手をかける。


「ああ、だから待ちなさいってば」


 エリスはラルリスを制止する。今度はかなり落ち着いている。


「あなたもそう思いませんか、エリス?」


 バライはエリスに問いかける。この場で第三者といえる立場に立つ火星人のエリスに。


「思わないこともない……騎士なんて堅苦しくてつまらない。なりたいとも思わない」


 エリスはアグライアやデランを頭に思い浮かべながら答える。


「でも、そういった奴らが強いってだけで私にとっては十分よ」

「なるほど、単純明快ですね。強い者が正しい、と」

「そういうことよ。金星の騎士がどうだとか、木星の技術がどうだとか、そんなの強い奴の理屈が正しい。

それでいいと私は思ってるわ」

「素晴らしいです」


 バライは拍手して素直に賞賛する。


「ボクが見込んだ通り、やはりあなたは話がわかる女性です」

「エ、エリスが、話がわかる女性?」


 イクミは笑いをこらえる。


「なるほどね。強い者が勝つ。勝った方の理屈が正しい、か」


 ラルリスもそれで納得する。


「わかったわ。だったら、私が優勝して証明してみせるわ」


 そう言って席を立つ。


「……優勝するのは私よ」


 エリスは呟く。


「いいえ、ボクですよ。

ボクはこの日のために、ノヴァリーゼを造り上げたのですからね」

「あんたの方も気合十分ってわけね」

「ええ、あなたもあの元聖騎士も倒して、ボクの正しさを金星中に証明してみせますよ。

――錆びた黄金を洗い流し、新たな黄金を鋳造します」




「バライの坊主がそんなことを言ってたのか」


 格納庫で軽くサンドイッチを口にしながら作業するラウゼンにイクミは食堂での一幕を話す。


「師匠はんはどう思いはるん?」

「別に……金星とか木星とか……そんなんどうだっていい。そうじゃなかったら火星人の嬢ちゃんを操者になぞ選ばんわい」

「さっすが師匠はん! 話がわかる!」

「ただ、アライスタとバライの坊主を潰せばいいだけの話だろ」

「ええ、ま、まあそういうことやけど……」


 イクミは困惑する。


「なるほど、親娘か」


 込み入った事情なんてどうでもいいから、ぶっとばせばいい。二人の気性はよく似ている。


「嬢ちゃん、調子はどうだ?」


 コックピットに入ったエリスに訊く。


「悪くないわね」

「よおし、これで二試合でしでかした無茶はごまかせたな。

んで、嬢ちゃんの調子は?」

「いいわよ!」


 エリスは拳を打ちつけて、調子の良さをアピールする。


「そいつはよかった。さっきの試合で得た感覚を大事にして戦えば、勝てる!」

「ええ! 必ず優勝してやるわ!」

「期待してるぜ!」


 エリスとラウゼンは拳を合わせる。


「ところで、一つ訊いていい?」

「なんだい?」

「あのノヴァリーゼについてどう思う?」

「……そのことか」


 ラウゼンは面倒そうに頭をかきながら答える。


「素直に言うととんでもねえと思うぜ。二つの星の技術を掛け合わせるなんて並大抵の苦労じゃなかったはずだ。木星の標準サイズに金星の頑強さを重ねるなんざ思いついても簡単に出来るもんじゃねえからな。まああの木星の技術を取り入れようって発想がわし達金星人には普通ないもんだからな」

「木星が憎いから?」


 ラウゼンは眉をひそめる。

 一つ訊くと言っておきながら、と言いたげだが、エリスの遠慮の無さに不思議と苛立たなかったので答えることにした。


「憎くないといえば嘘になる。前の戦争で散々奴等にわしらの造り上げた機体は壊されてきたからな、金星のマイスターはみんなそうだ。アライスタだってな。

――だが、わしは造ることしか能が無いからな。壊されたらまた造ればいい、ってそう思ってるだけのことだ」


 それだけ聞いて、エリスは満足した。


「オーケー、それだけ聞ければ十分よ」

「聞きたいだけ聞きやがって。これで優勝しなかったら承知しねえぞ」


 二人は微笑みかわしてから、ハッチを閉める。


『まもなくテクニティス・フェスト闘技部門、決勝戦を行います。参加者各位は準備が済み次第、スタディオンについてください』

 アナウンスが入る。

「いってこい」


 ラウゼンは軽く言って送り出す。

 エリスはハイスアウゲンを立ち上げて、眼下で見上げるラウゼン、ラミ、イクミ、マイナを睥睨する。


「いってくるわ」


 格納庫を出る。

 スタディオンには既にノヴァリーゼとノイヘリヤが待ち構えていた。


「大きいわね」


 ハイスアウゲンに乗り込んだことで、かなり大きくなっていたつもりだったけど、ノヴァリーゼはその倍以上あった。


(ま、敵が大きくたってやることは変わらないわよ)


 そうエリスは割り切っていた。


『優勝はボクがいただきますよ』


 バライは不敵に言う。


『そうはさせないわよ。少なくとも貴様ごときに優勝は絶対に渡さない!』


 それに対して、ラルリスはムキになって言い返す。


「やる気満々ね。まあ優勝は私が貰うけど」


 エリスはさらりと火に油を注ぐようなことを言う。

 ハイスアウゲン、ノヴァリーゼ、ノイヘリヤの三機が揃い、スタディオンに燃え上がるような熱気に包まれだした。


『おい、ちょっと待て!』


 ガシガシと物々しい音を立てて、・シュタビールがやってくる。


『お前ら、あたしを忘れてねえか?』

「あ~あんた、いたんだ」


 エリスは忘れていた。

 決勝戦は四機で行なわれる。そのため、四機目がいるというのは当たり前のことなのだが、四機目にシュタビールという機体がいることがすっかり頭から抜け落ちていた。


『絶対に忘れていたな!』

「いや、忘れるなんてそんなわけないじゃない。憶えたこともないんだし」

『なんだとぉぉぉぉッ!!』


 シュタビールの操縦者は激怒する。


『このシャニィ・ハサーとシュタビールを忘れていただとおおおッ!』

「いや、だから忘れていたんじゃなくて憶えてなかったって言ってるでしょ」

『許さんぞおおおッ! エリス・マーレットッ!』


 向こうはきっちり憶えていたようだ。


「なんなの、あいつ?」


 エリスはどこ吹く風だった。

 というより、ノヴァリーゼとノイヘリヤ以外眼中にないと言った方が正しい。


『貴様は絶対に潰すからな! 今に見てろよッ!』


 シャニィは叫ぶが、エリスの耳に届いたかどうかも怪しい。


『それでは各機、準備はよろしいでしょうか?』


 ガウス長官のアナウンスが流れる。


『これより、あなた方はバトルロイヤルで戦ってもらいます。戦闘可能な機体が一体になるまで戦い、その機体が優勝となります。前日の競走の評価点と合わせて採点し、総合点が最も高かったものに、マイスターにはアワードマイスターの名誉を、マシンノイドには金賞(ゴルトマキア)を与えます』


 歓声が上がる。

 このフェストに参加したマイスターはこの名誉と金賞が目的だったのだろうし、今ここにいるマシンノイドを送り出したマイスターもそれは同じだろう。


 ラウゼンも、アライスタも、バライも……みな、このフェストに優勝するために……


 そう考えると、自然と力が入る。

 力んでいるといっていい。脳裏に、食堂のざわめきがよぎる。


「順当に行けばアライスタが勝つだろうな!」「いや、ノヴァリーゼって機体も強そうだぜ!」「ラウゼンんとこのハイスアウゲンだって食らいついたら面白いぜ!」


 期待、憧れ、嫉妬……様々なヒトの感情が織り交ざってこのフェストの興奮と熱狂が形作られている。

 今更ながらにそれが実感させられる。


――でも、だからといって、私がやることは変わらないわ。


 しかし、胸に確かな一つの想いを再確認する。そうすることで、ここでもエリスは自分らしくいられた。


『各機、準備はよろしいでしょうか?

それでは、これよりテクニティス・フェスト二日目闘技部門決勝戦を開始致します!

カウントスタート!』


 ガウス長官のアナウンスとともにカウントは開始する。


3(ドライ)!


 エリスは拳を握りしめる。

 開始と同時に畳み掛けるために。


2(ツヴァイ)!


 敵を見据える。

 倒すべき敵――ノヴァリーゼとノイヘリヤを。


1(アイン)!


 さあ、戦いだ。

 カウントが0になった瞬間を逃さず、一気に飛び込んでやる。


ファイ!

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