氷の精神、インストール!

 最初に動いたのはフルフルイヴィルダーであった、フルフルイヴィルダーは鹿の角のような部位から雷を発生させると、響に向かって放電する。

 二本の角から放たれた雷は響の周囲を焼き払い、響の鉄のような装甲を貫通してダメージを与える。


「ぐううう」


 響は体に襲いかかる電撃に動きを止めてしまうが、すぐに左手にキマリススラッシャーを生成すると、フルフルイヴィルダーに向かって投擲する。風を切る音と共にキマリススラッシャーはフルフルイヴィルダーの角を斬りつける。

 フルフルイヴィルダーの角のからは一筋の切り傷と、僅かながらの赤い血が流れるのであった。


「てめえ!」


 激昂したフルフルイヴィルダーは電撃を放ち、響に対して牽制しつつも響に近づくと両手で掴みかかる。そして響に殴りかかるが、その一撃は響に通じず受け止められる。

 パシっと乾いた音と共にフルフルイヴィルダーの拳を掴んだ響は、そのままフルフルイヴィルダーの拳を捻り上げていく。


「ぐぅぅぅ」


 捻り上げられたことでフルフルイヴィルダーからは、苦悶の声が漏れるがそんな事は気にせず響は力を更に込めていく。

 そしてそのまま苦しんでるフルフルイヴィルダーの脇腹へ響は、鋭い回し蹴りを叩き込む。

 フルフルイヴィルダーの脇腹から鈍い音が鳴り、フルフルイヴィルダーは膝から崩れ落ちる。その隙を逃さず響は掴んだ腕を離して、両手でフルフルイヴィルダーの頭部をつかまえる。

 そしてそのままフルフルイヴィルダーの顎に向かって、鋭い膝蹴りを連続して叩き込む。一発、二発、三発、と叩き込まれる。


「ぐぉ」


 膝蹴りを何度もをくらって呻くフルフルイヴィルダー、そのまま追撃しようとする響は頭部へのホールドを離すと、右足を曲げて勢いよく体重を載せた一撃を、フルフルイヴィルダーのみぞおちに叩き込むのであった。

 ヤクザキックを受けてフルフルイヴィルダーの体は宙を舞い、そのまま無残にも砂浜に倒れ込む。


「あああああああああ、ふざけんなぁ!」


 響にいいようにされてボロボロになったフルフルイヴィルダーは、切れてどこまでも聞こえそうな大声で叫びだす。

 それでも響はうろたえずにクイクイと、人差し指を自身の方に曲げてフルフルイヴィルダーを挑発するのであった。

 それを見てフルフルイヴィルダーは立ち上がり、響に向かって走り出す。

 しかし響もすぐに走り出し、フルフルイヴィルダーに向かってジャンプをする。


「レッグラリアット!」


 飛んだ響はフルフルイヴィルダーの顎に向けて強烈な回し蹴りを叩き込む。レッグラリアットをくらったフルフルイヴィルダーは、その体は再び宙を舞い砂浜に倒れるのであった。

 フルフルイヴィルダーの走る勢いと、響のジャンプの勢いそして回し蹴りのダメージが合わさり、凄まじい一撃となったレッグラリアットを受けたフルフルイヴィルダーはすぐに立ち上がれなかった。

 動けないフルフルイヴィルダーを倒そうとした響は、必殺技を発動するためにデモンギュルテルに装填されたイヴィルキーに手をかけようとする。その瞬間、響の背後から異音が聞こえるのであった。


〈Focalor!〉


〈Corruption!〉


 次の瞬間、雲ひとつない青空なのに海が荒れ始め風が唐突に吹きすさぶ。そして海水がまるで行きているかのように、響の頭にまとわり付き溺死させようとする。


「ゴボボボ? ゴボゴボゴボ!」


 いきなりの出来事に響は、「何事だ!?」と叫ぼうとするが海水のせいでまともに喋る事ができない。

 すぐに響は頭にまとわりついた海水を取ろうと、必死に両手を動かすが元は液体のために全く外れない。

 何が起きたのか知るために響は後ろを振り向く、すると背後にはグリフォンの翼を生やした男の姿をした異形、フォカロルイヴィルダーが立っていた。

 フォカロルイヴィルダーが立っていた場所には先程までは男が立っていた、つまり男がフォカロルイヴィルダーに変身したと響は即座に理解した。

 次に動き出したのは三人の男達の内の最後の男であった、男が懐からイヴィルキーを取り出すと男の腰にデモンギュルテルが生成される。


〈Demon Gurtel!〉


 そして最後の男はイヴィルキーを起動させると、デモンギュルテルにイヴィルキーを装填するのであった。


〈Vine!〉


「憑着」


〈Corruption!〉


 男のデモンギュルテルの中央部が開くと、黒い嵐が発生し男を飲み込む。そして後には右肩に黒い馬、左肩に蛇、そして頭はライオンの姿をした異形ヴィネイヴィルダーが立っていた。

 ヴィネイヴィルダーは響に向かって右手をかざすと、響に向かって嵐が巻き起こり響を空高くに吹き飛ばす。


「ゴボボボ!」


 頭に海水がまとわりついて呼吸ができない響は、そのまま地上に急降下していく。そして勢いよく地上に叩きつけられた響は、なんとか受け身を取れたが痛みで体は痙攣していた。


「一対一じゃないのかよ!」


 横槍を入れたフォカロルイヴィルダーとヴィネイヴィルダーに向かって、怒りの言葉を向けるウェパル。しかしフォカロルイヴィルダーは見下すように笑うのであった。


「何勘違いしてんの? それはお前らが勝手に思ってるだけでしょ。こっちとしてはウェパル、あんたを持ち帰るだけで金がもらえるんだ」


「金? まさかフォルネウスの差し金か!」


「そうそう、そんな感じの名前」


 フォルネウスイヴィルダーの手のものと聞いて、ウェパルは身を守るように後ろに下がる。しかし誰も守ってくれない状況でか弱い少女一人に、異形のイヴィルダー三人はどんどんと距離を詰めていく。

 そこに砂が握られたような音が小さく響き渡る。音の発生元をその場に居た全員が視線を向けると、海水から開放されて呼吸を整えながら立ち上がる響がいた。


「なんだまだ戦うのか?」


「ウェパル、お前はさっさと逃げろ。んで色白のサングラスをかけた薫って奴にこの状況を伝えろ!」


 笑うフォカロルイヴィルダーを無視して、響はウェパルの前に立ち三人のイヴィルダーから守ろうとする。


「でも……」


「さっさと行け!」


 響の言葉を聞いたウェパルは一瞬躊躇するが、すぐに響を背にした走り出す。三人のイヴィルダーはウェパルを追おうとするが、響によって止められる。

 いの一番にフルフルイヴィルダーが走り出すが、響によってカウンター気味の拳によって殴り飛ばされる。

 フルフルイヴィルダーから視線を外した響は、残りの二人のイヴィルダーに視線を向ける。そしてフォカロルイヴィルダーに向かって、突進するのであった。


「うおぉりゃあ!」


 フォカロルイヴィルダーに殴りかかる響、しかしフォカロルイヴィルダーは海水を操りその攻撃を受け止める。

 攻撃を受け止められた事に気づいた響は、すぐに後ろに下りヴィネイヴィルダーに視線を向けて攻撃を仕掛ける。

 ヴィネイヴィルダーに近づいていく間にフォカロルイヴィルダーから海水による妨害があったが、響は左右にステップすることで妨害を回避する。そしてヴィネイヴィルダーに飛び蹴りを放つ。

 ヴィネイヴィルダーと距離が近づいていく響、しかし横から雷撃が響を襲い、バランスを崩して地面に墜落する。


「何が起きた?」


 雷撃が放たれた方向へ響が視線を向けると、そこには立ち上がったフルフルイヴィルダーがいた。フルフルイヴィルダーの頭の角からは電撃が帯電していて、先程の攻撃はフルフルイヴィルダーによるものであると響は推察した。

 電撃でしびれる体を奮わせて響は立ち上がろうとするが、ヴィネイヴィルダーが放った竜巻が響を襲い、再び砂浜に叩きつけられる。

 砂浜にきりもみするように叩きつけられた響は、三人のイヴィルダーをにらみつける。


(どうする、どうすればいい……)


 響は迷っていた、一対二までの戦闘であればなんとか戦えた。しかし今の一対三の戦いでは、三人目の攻撃まで捌き切る事ができない。


「おいこいつさっさとヤッちまって、さっきの子を囲もうぜ」


「そりゃいいや」


 三人のイヴィルダーは下品な事を呟きながらも、響を囲もうと近づいてくる。

 響は急いで立ち上がると、フォカロルイヴィルダーに向かって走り出す。しかし三人のイヴィルダーはそれぞれ、雷撃、流水、竜巻を響に向かって放つ。

 同時に放たれた攻撃に響は吹き飛ばされて、砂浜をボールのように跳ねる。


「ぐぅぅぅ」


 痛みを耐えながらも響は立ち上がり、三人のイヴィルダーを見据える。


『諦めるのかい響?』


『そんなわけあるかよ、あんな奴らに負けるとか嫌だしな』


 キマリスの挑発を笑い返す響、このままでは勝てないと感じた彼は、この状況を打破する戦術を使うと決めたのであった。

 懐からフラウロスのイヴィルキーを取り出す響、そして起動させてデモンギュルテルに装填する。


〈Flauros!〉


「憑着!」


〈Corruption!〉


 起動音と共にデモンギュルテルの中央部が開き、炎をまとう豹が飛び出す。豹は三人のイヴィルダーを威嚇すると、そのまま響の元に飛び込む。

 赤い炎によって姿が隠れる響、そして炎が消えた後には赤い豹の意匠を持つ異形、フラウロスイヴィルダーに変身した響がいた。

 響は両腕をクロスさせると、両手の手の甲から爪を伸ばす。そして三人のイヴィルダーに向かって冷たい視線を向けるのであった。


「氷の精神、インストール完了!」


 今此処に冷たい心を持った戦闘マシーンが立ち上がるのであった。

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