夢を司る豹、天より降り注ぐ銃弾

 シトリーイヴィルダーに向けてサムズダウンする響、それを見たシトリーイヴィルダーは激昂して体からキマリススラッシャーを抜いて捨て、響に殴りかかる。


「ふざけるな!」


「ふざけちゃいないさ」


 シトリーイヴィルダーの一撃を片腕で受け止める響、攻撃の隙を突いてジャンプをするとそのまま胴体へ横回転して蹴りを叩き込む。

 ローリングソバットをモロに受けたシトリーイヴィルダーは苦しみながら一歩下がるが、響に上半身を両腕で掴まれると膝蹴りを叩き込まれる。


「ううう」


 一撃、二撃、三撃、と連続で放たれる膝蹴りに、シトリーイヴィルダーの下半身はフラフラになってしまう。

 そんなシトリーイヴィルダーに響は、手のひらの付け根の部分をシトリーイヴィルダーのみぞおちに当てる。そしてそのままズンと、掌底打ちを放つのであった。


「ぐううう」


 シトリーイヴィルダーのみぞおちを襲う痛みに、彼女はうめき声を上げてしまう。

 響は何も言わずに続けて、右手の手刀を振りかざそうとするのであった。しかしシトリーイヴィルダーは手刀が放たれる前に、響に向かってタックルをする。

 シトリーイヴィルダーのタックルは響に決まったが、響はそのまま受け止めて両手を組みシトリーイヴィルダーの背中に叩きつける。


「ふん!」


 響のダブルスレッジハンマーをくらったシトリーイヴィルダーは、強力な威力によって体を逆くの字に折り曲げるのであった。

 後ろに下がる響、足元に落ちているキマリススラッシャーを拾い上げると、そのままシトリーイヴィルダーに斬りかかる。


「はぁぁぁ!」


 襲いかかるキマリススラッシャーを後ろに下がって回避するシトリーイヴィルダー、しかし響も後ろに下がるシトリーイヴィルダーを追うように前に進んでいく。

 攻撃を回避していくシトリーイヴィルダーであったが、徐々に追撃する響に追い込まれていく。

 そして響が一気に距離を詰めると、シトリーイヴィルダーの首元にキマリススラッシャーの刀身を当てる。


「っひ」


 襲いかかる痛みを想像したのだろう、シトリーイヴィルダーは情けない悲鳴をあげてしまう。

 響はシトリーイヴィルダーの反応を見ても、そのままキマリススラッシャーを勢いよく引くのであった。

 シトリーイヴィルダーの首元からは火花が散り、甲高い金属音があたりに響き渡る。


「あああぁぁぁ!」


 急所の一つである首元を襲う痛みに叫ぶシトリーイヴィルダー、そのまま響は顔面を勢いよくキマリススラッシャーで斬りつけるのであった。

 四つん這いになり響から逃げようとするシトリーイヴィルダー、しかし響はジャンプをするとシトリーイヴィルダーの逃げ道を防ぐのであった。


「くっ」


 シトリーイヴィルダーは急いで立ち上がり響に向き合うと、ベルトのキーを一回押すのであった。


〈Unique Arts!〉


 ベルトから音声が鳴り響くと同時に、響を包囲するようにシトリーイヴィルダーが六人現れる。


「なに!?」


 包囲された事実に驚く響、直ぐに周囲を見渡すが先程まで逃げようとしていたシトリーイヴィルダーは消えていた。

 すぐに響はキマリススラッシャーを持ち直すと、シトリーイヴィルダーへ斬りかかる。しかし斬られたシトリーイヴィルダーは、霧のように消えてしまうのだった。


「っち!」


 消えたシトリーイヴィルダーを見て響は、小さく舌打ちをする。そのまま残った五人のシトリーイヴィルダーへ剣を向けるのであった。


『響、これはシトリーが君の神経を惑わしているんだ!』


 キマリスの助言を聞いた響はシトリーイヴィルダーを観察する、しかしどれも本物のシトリーイヴィルダーにしか見えないのだ。

 二人目のシトリーイヴィルダーに斬りかかる響、しかし先程と同じくシトリーイヴィルダーは霧のように消えていく。


「こいつも違う!」


 二人目も本物ではなかったことに焦る響、そこに別のシトリーイヴィルダーに背中から攻撃される。


「ぐぅぅぅ」


 攻撃されて地面を転がる響、直ぐにシトリーイヴィルダーを睨みつけるがどれも同じに見えるのだった。


『くそ、あいつは本当にここにいるのか?』


『当然いる、シトリーは空間跳躍ができる悪魔でないからね。消えたわけじゃない』


 遂に弱音を吐いてしまう響、しかしキマリスの言葉を聞いて奮起する。


「消えたわけじゃない、つまり俺の目には見えて無いだけか……」


「フフフ、さあどうする? このまま妹の手にかかるか?」


「いや、そんなことさせないさ」


 シトリーイヴィルダーの言葉を聞いて響は、膝を立てて立ち上がる。そしてキマリススラッシャーを構えるのだった。


「見えないけど、そこにいる。ならこうだ!」


 響は懐からレライエのイヴィルキーを取り出すと、起動させてデモンギュルテルに差し込む。


〈Leraie!〉


「憑着!」


〈Corruption!〉


 起動音と共にベルトの中央部が開き、中から緑のマントが飛び出る。そのまま響の周囲を飛び回ると、マントが響の体を包み込む、そしてマントが開かれるとそこには緑の狩人レライエイヴィルダーに変身した響がいた。


「こうなりゃ、あたり一面銃撃してやる!」


 襲いかかってくるシトリーイヴィルダーの攻撃を捌きながらやけくそ気味に叫んだ響は、ベルトのキーを一回勢いよく押すのであった。


〈Unique Arts!〉


 ベルトの起動音が鳴り響くと同時に響の頭上に、二つの巨大なガトリング砲が生成される。そしてガトリング砲の砲門が回転し始めると、響の周囲に銃弾をばらまき始めるのだった。

 当てもなくただ縦横無尽にばらまかれる銃弾を見て、シトリーイヴィルダー達は恐怖したような表情になり回避する。

 しかし圧倒的な物量でばらまかれる銃弾の前には無意味で、一人、また一人とシトリーイヴィルダーは銃弾の雨に飲み込まれては消えていく。


「はっはっは、見えなくてもそこにいるなら。あたり一面を無差別に攻撃すればいいのさ!」


 あっけなく消えていくシトリーイヴィルダーを見て響は笑いながらも、シトリーイヴィルダーの本体が出てくるのを待っていた。


『あまり狩人的でないのが、ちょっと嫌だけどね』


『それについてはすまないと思ってる、レライエ』


 そんな中レライエは響の取った手段に小言を言う。流石にレライエの流儀に反するやり方をしたのは悪いと思ったのか、響はレライエに謝罪するのであった。

 無差別にばらまかれる鉄の嵐は十秒程でピタリと止む、先程まで居た四人のシトリーイヴィルダーは塵も残さず消えてしまい。残っていたのは銃撃に巻き込まれたと思わしき、地面に倒れたシトリーイヴィルダーであった。


「こんな、知能のかけらもない攻撃で……妾がやられるなんて」


 響のとった解決策に冷笑しながらも口惜しそうな表情をするシトリーイヴィルダー、そんな彼女に響がゆっくり歩いて近づいていく。


「ひぃ」


 一歩、一歩、と近づいてくる響を見て怯えるシトリーイヴィルダー、それを見た響は見下すような目で見下ろすのであった。


「よう、また会ったな。じゃあ琴乃を返してもらうぜ」


 倒れているシトリーイヴィルダーの顔面に膝を叩き込む響、地面に倒れ込んだシトリーイヴィルダーを響は無理やり立たせるのであった。


「まだまだだ!」


 密接した距離から放たれる響のパンチ、一発、二発、とシトリーイヴィルダーの顔面に叩き込まれていく。

 苦し紛れにシトリーイヴィルダーも反撃するが、顔面に叩き込まれたパンチを響は物ともしなかった。


「ひぃ」


 攻撃を受け止めきった響を見てシトリーイヴィルダーは、恐怖して逃げ出そうとする。

 響は落ち着いて腰に下げられたレライエマグナムを抜くと、無言で引き金を引くのであった。


「があああ」


 背中を襲う衝撃に悲鳴を上げて倒れ込むシトリーイヴィルダー、そのまま響はレライエマグナムで銃撃し続ける。

 倒れたシトリーイヴィルダーに追い打ちをかけるように放たれる銃弾、シトリーイヴィルダーは銃弾が当たるたびにビクン、ビクンと体が跳ね上がるのであった。


「これで終わりだ」


 響はそう言うとベルトのキーを二度押すのであった、それと同時にシトリーイヴィルダーはなんとか立ち上がる。


〈Finish Arts!〉


 ベルトから起動音が鳴り響くと同時に、ベルトから響の両足にエネルギーが送り込まれる。そして響はシトリーイヴィルダーに目掛けてジャンプをする。

 シトリーイヴィルダーは逃げようとするが時既に遅し、シトリーイヴィルダーの眼前には両足で飛び蹴りをする響がいた。


「あああぁぁぁ!」


 蹴った勢いを利用して後ろに着地する響、そして必殺の一撃をくらったシトリーイヴィルダーは叫び声を上げて爆発するのであった。

 爆発した後には倒れた琴乃と、シトリーとフラウロスのイヴィルキーが地面に転がっていた。


「琴乃!」


 響は急いで琴乃の元に駆け寄ると、琴乃の息や意識の有無を確認する。琴乃はなんとか呼吸をしていた。


「ん……兄貴?」


 小さく呟きながら意識を取り戻す琴乃、それを見た響は急いで変身を解除するのであった。


「琴乃、大丈夫か!?」


「うん大丈夫、それより兄貴カッコ良かったよ」


 琴乃が大丈夫そうなのを確認した響は琴乃を思いっきり胸に抱きしめる、そんな響は涙を流しながらも笑みがこぼれるのであった。


「もう兄貴ってば、泣かないでよ」


 響の顔に流れる涙を困った顔で掬う琴乃、そう言いながらも琴乃の目にも涙がこぼれていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る