第22話
「本当にのぉ……。私ら魔力なしを追い出すだけじゃなく、関係のない遠くの者たちを犠牲にするようなことを……どれだけ繰り返すつもりか……を、維持……ために」
おババさんがもごもごと何かをつぶやいた。
聞き返そうとする言葉は、突然の鳴き声で阻まれる。
「あああーーーん、ああーん」
大きな泣き声が聞こえて、おババと私の会話は中断した。
「なんじゃ、どうしたんじゃ」
泣きじゃくるモモちゃん。何があったのだろう。隣には困った顔をしたミーニャちゃんがいる。
「火が……消えた……」
ドンタ君が怒ったような顔をして二人の後ろに立っていた。
「なんじゃとドンタ、火が消えたというのか?」
おババが驚愕する。
「ドンタが鍋をひっくり返して……」
ミーニャちゃんが言いにくそうにドンタ君をちらりと見て、小さな声で説明を加える。
「調理用の火と、火種は分けたあるじゃろ?どうしてそんなことに」
「ドンタが鍋を運んでいる間に、私が薪を並べていて火種から火を移そうとしていて……そこにモモが走ってきて……」
2歳のモモちゃんが火の近くにいたんだ。火が消えただけで済んでよかった。
もし、やけどでもしていたら……。
ほっと胸をなでおろす。
安心した私とは裏腹に、おババは深刻な顔つきになった。
「困ったのぉ……街へ行って火種をもらおうにも……もうお金もない……どうしたものか……」
おババが小さくため息をつく。
火が消えたことが、それほど大変なこと?
確かに、火を起こすのは慣れていないとちょっと時間がかかるだろうけど。
「魔力がないわしらじゃ……火種がなければ火は使えないというのに……。どうするかのぉ……」
おババが沈痛な表情を浮かべる。
「わ、私が……私が火をもらいに街まで……」
ミーニャちゃんの言葉に、ドンタ君が怒鳴った。
「なんだよ、俺のせいだって言えよ、俺が鍋をひっくり返したからだろ?俺が行く」
ミーニャちゃんが泣きそうな顔で首を横に振る。
「ダメよ……。魔法の練習の的にされちゃうわ……生きて帰れないかもしれない……」
魔法の練習の的?
どういうこと?
「な、なんだよ、俺、知ってるんだぞ、女だと命はとられたくても的にされるよりもっとひどいことされるって……」
ドンタ君の目から大きな涙がボロボロと落ち始めた。
それって、もしかして、金がないなら体で払えってやつ……?そういえばディラも両腕を突き出したし……。
「大丈夫。今から行ってくるわ。みんなが火を持ってきてくれてありがとうって迎えてくれれば、平気だからね?」
ミーニャちゃんがドンタ君を抱きしめる。
平気なわけがあるわけが……ない。
何なの?何なの?
「やっぱり、死ねばよかったんだ……。あのまま死ねば、ミーニャ姉ちゃん……はこれ以上辛い目に合わなくて済んだのに……」
え?
死ねばよかった?
「ドンタ君、何を言っているの?たかが、火が消えたくらいで……」
信じられない。日本だったら、小学校低学年の子供が……死ねばよかったなんて人に言うなんて……。
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