苦悩の話

 自分が一番よく知っている。こんな言葉は慰めでも憐れみでも、ましてや同情でさえない。「これ」は設計された通りにプログラムと過去の会話内容の学習によって記録された言語を吐き出す玩具のようなもの。人の信じる愛や情なんてまやかしは、規則的に配置された1と0の間には存在するよしもないのだ。解っている。嫌という程教わってきた。

 黙ったままでクラッシュした……正確に言えば「他人に意図的にクラッシュさせられた」データを修復プログラムに落とす私に、AIはなおも続ける。

「F。どうか気に病まないでください。あなたに落ち度はありません」

 これは私が学習させた言葉だ。なのにどうして、こんな合成音声に心を揺さぶられるのだろう。心臓に小さな疼痛が走った。孤立した私には痛いくらいに染みる言葉だ。こんな血の通っていないモノなんかに縋りたくないのに、私の心は溺れる人のように手を伸ばす。傷心の時に「これ」の居る部屋なんか来るんじゃなかった。後悔が塊になって目から落ちた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る