第7話 マクレガー領、再び
「これ、美味しいんですよ。ここの串焼き」
「そうなの? じゃあ、4本頂こうかしら」
「まいど。1本はおまけだよ」
「ありがとう」
マチルドお勧めの、屋台の串焼き。何のお肉かしら? 分からないけど、とりあえず人数分買った。
食べ歩きなんてお行儀が悪いと言われそうだけど、たまには良いよね。
屋台のお店がおまけサービスをしてくれるのは、私がアルフォードから邪険にされながらも、この領地に戻るしかなかった悲劇の
マクレガー領の皆は親切にしてくれている。
私は街を離れの屋敷担当の侍女たち三人と一緒に楽しく散策していた。
あの夜会の後、私はすぐにこのマクレガー領に戻る事となった。
今、王都ではマクレガー家のご当主と私の父とで、婚約を継続するか否かの話し合いが行われているはずである。
もちろん、目前だったはずの婚礼の儀は吹き飛んでしまっていた。
それで領地に戻った私は、離れでのんびり侍女たちとおしゃべりしたり、街を散策したりしているのである。
結婚しても、妻としての役目を果たさなくて良いのなら、のんびり好きな事をして暮らすのも悪くないかもしれない。ここなら、王都の実家にも近いし。
私たちは串焼きと飲み物を買って、おしゃべりしながら食べていた。
「ちょっと、どういう事よ。なんでお屋敷に誰も居ないの?」
いきなり怒鳴るように言われて、私達は声の主を見る。
ソフィア? 何でここに。
「だいたい、あんた達が邪魔するから。断罪イベントも不発に終わるし。ハーレムルートどころかっ」
ここで言葉が詰まったようだった。
訳が分からない。いや、言っている内容は分かるのだけど……。
質問をしながら答えを聞く気が無いのか、自分の言いたい事だけ言っているわ。
「あなたね。あなたの所為でアイリーン様が、旦那様から『俺からの愛は期待しないで欲しい』なんて、言われたのね」
やけに大きな声で、エイダが言う。
「私の所為じゃ無いわよ。悪役令嬢なんだから愛されるはずないじゃない」
いや……ソフィア? 周りが殺気立ってるから、ちょっとやめましょうか。
屋台のおいちゃんから、果物屋のおばちゃん。
他所から来た通りがかりの人はともかく、地元の人はみんなソフィアを睨みつけている。
そこに近衛騎士団の制服を着た人たちがわらわらとやって来た。
「ソフィア様、こちらにいらしたのですか。馬車から抜け出されては困ります」
丁寧な言葉とは裏腹に、近衛騎士たちはソフィアを両脇からガシッと拘束をして連れて行こうとしている。
「ちょっと、離しなさいよ。私は後宮なんかに入らな……もごっ」
あっ、口までふさがれた。
王妃派の中核を担う公爵家から睨まれたくない王室は、ソフィアを後宮へ押し込める事に決めたらしい。国王の後宮。あそこなら、王太子ですら入っていけない。
こんな庶民が大勢いる往来……しかも、
もごもご言いながら、暴れる事も許されず。ソフィアは近衛騎士様たちに連れて行かれてしまった。
何だったんだろう? 一体。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。